第4話

 アナウンスが響き渡る。


「本試合は特別ルール、“ストリート庭球”形式。

 打球による直接攻撃、ラケットによる接触、すべて“有効”。

 1ゲーム先取のサドンデス方式――**命の一点勝負(ワンショットマッチ)**!」


 ゴングの代わりに、銃声が鳴った。


 クラッシャー嵯峨が咆哮しながら突っ込んでくる。


「うおおおおおおおおおおッ!!」


 開幕サーブなどない。いきなりの突進。

 ラケットを逆手に持ち、斧のように振り下ろす。


 観客席が歓声と悲鳴で沸騰した。


 タイジはそれを、半身で躱す。


 ――一撃でも食らえば、骨が粉砕される。


 だがタイジは、まるで風のように滑る。


 嵯峨の振り下ろしたラケットが床板を砕くのを見て、すかさずタイジは反撃に転じた。


 **カシュッ!**


 低く抑えたスライスでボールを打つ。

 だがそれは、ネットすれすれで止まる――**フェイント**だ。


 嵯峨が一歩踏み込む。


「舐めんなッ!!」


 踏み込んだ瞬間、**床が抜けた。**


 それすら、タイジの計算。

 コートの板の一部が、敢えて外されていた。


 「地雷フェイント(グラウンドブレイク)」。


 埠頭の仮設コートでは、**“地の利”も試合の一部**。


 ぐらついた体勢でバランスを崩した嵯峨の懐に、タイジが滑り込む。


 ――構えなし。力なし。

 ただ、**静かに放たれた一球**。


「“静打・改(セイダ・カイ)”」


 ラケットの芯でぴたりと捉えたその球は、嵯峨の喉元を撃ち抜いた。


 **ボゴッ!!**


 空気の抜ける音がした。

 嵯峨の巨体が、崩れるように前のめりに倒れる。


 静寂。


 その次の瞬間、観客席が爆発したように騒然となった。


「**勝者、水城タイジ!!**」


「てめぇ! やりやがったぁ!」


「倍率10倍だったぞこの野郎ッ!!」


 観客の中には怒号を上げる者、札束を握りしめる者、泡を吹いて笑う者がいた。

 誰かがタイジに銃を向けかけたが、すぐに制止された。


 タイジは一歩も動かず、コートの中央に立っていた。


---


## 試合後 ―――控室


 試合が終わった直後、タイジはシャワーも浴びずに、薄暗い控室で一人、静かに汗を拭いていた。


 そこへ、ハルオが入ってくる。


「……お前、ほんとに“人を殺さないギリギリ”を狙ってんのな」


「勝つためだ。それだけだ」


「ふん、だったら次の相手はもっとやばい。今度は“道具を使わない庭球”だ」


「道具……?」


「そう。“ラケットを使わず、手打ちで戦う”。しかも相手は、**元・武術家**。名を――**九頭竜・洸(くずりゅう・こう)**」


 ハルオが投げたファイルを見ながら、タイジは目を細めた。


「面白ぇじゃねぇか」


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