第39話 ギャンブル

ある海岸縁(べり)の駅で電車が止まった。男たちの群れが電車から転がるように吐き出される。すると真剣な表情で一斉に走り始めた。一目散に、灰色のビルの暗い口目掛けて百メートル走のような勢いで、駆け出していった。


その光景は、まるで掃除機に吸いこまれる塵(ごみ)のようだった。互いの会話はなにもない。ただロボットのように、機械的に次々吸いこまれていく。

まるで電車の中の汚物であったかのように消えていった。

その悍(おぞ)ましさは…、いかんともいいがたい。


男たちがその開いている暗い口の中に、どんどん呑(の)みこまれていく。ギャンブルに狂った、異様な目つきの男たちの群れに、龍は悪寒が走る。その一幕は、彼に強い衝撃を与えた。ギャンブルへの暗いイメージが、脳裏にしっかり植えつけられてしまった。


競艇への悪い感情が、一気に全身を駆け巡った。吐き気を催し、ゾワッと怖(おぞ)気(け)がした。身震いする。はじめて接した競艇場での、ゾッとする光景だった。


それはまるで砂糖に群がる蟻(あり)の群れのようだった。「魂」の失せた虫の集団そのものだった。龍はそれ以来、すべてのギャンブルを嫌う。特に競艇を嫌悪するようになった。


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