第38話 遭遇(そうぐう)
義父の佐川が、ギャンブルをしている様子はない。実父小諸治が、博(ばく)打(ち)打ちという人種を軽蔑していたこともあって、学生の頃の龍は、麻雀や、パチンコや、賭博の環境からは、遠く隔てられて育ってきた。
知らないから免疫はない。さほどの抵抗もなく、かといって、特別悪い印象も持っていなかった。というより、考えたことさえない。
ところが九州旅行で遭遇した、ささいなきっかけから、賭博を心底毛嫌いするようになった。ギャンブルへの悪感情が、髪の毛の先まで染みついてしまった。そんな強烈なできごとに出交(くわ)してしまった。
旅行も最終行程に差しかかっていた。龍たち5人に新しく加わった仁と花純が乗っている電車は修学旅行の高校生で満席だった。座れる席は一つも空いていない。車内は人いきれで一杯だった。近くから乗ってきたらしい小母ちゃんと、女子高生たちが楽しそうに世間話をしている。
そんな和やかな車内に、県境に入って間もなく、とある駅から、一種異様な風体(ふうてい)をした、目の血走った男たちが、突然集団でどやどやと電車の中に乗りこんできた。洗い晒(ざら)しの、まだシミが斑(まだら)に残っている作業着の上に、小ざっぱりした薄手のジャンパーを羽織っている。
満席だったので、立ったまま無造作に座席の背もたれに肘を乗せ、拠りかかっている。小母さんたちと、女子高生たちのお喋りが、ピタっと止んだ。シーンと静まり返っている。電車の中は、不自然な沈黙に支配されていた。
静かな社内に、車輪とレールの摩擦(まさつ)音だけが、ゴットンゴットンと響く。中年の男たちは小さい新聞みたいな紙を眺めている。耳に挟んだ赤鉛筆でなにやら書きこみ、印をつけている。男たちの汗じみた臭いが、ぷんぷん漂ってくる。
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