第29話 抗争

人脈、地脈、血脈とありとあらゆる知りあいを巻きこんで、商売に結びつけてきた本物の商売人だった。吉本新喜劇に潜りこんでもなんとかやっていけそうな、

あきさせない冗舌ぶりと、頭の回転のはやさはピカ一だった。


腹も、肝っ玉もすわっていた。誰も知らない裏情報を自分だけが知っていて

『それをあんたにだけ教えてあげる』

作戦、これが功を奏した。ほとんどどこへいっても大歓迎される。


「何年かまえに組長が家のまえで腹を撃たれたことがあったろがい。新聞や、テレビで騒いで、ガンガンいうとったろがい。ほれ組長が撃たれたろ。ありゃの、わしん所(とこ)からちょっといった所の裏のほうの奴での。昔っからよう知っとったんじゃが。


彼奴(あいつ)は小学校んときから悪い奴やったけんの。婆ちゃんがの、彼奴が小(こ)まいときからたいがいあずっとったんじゃ。Mからきた一発屋が撃ちよったんじゃが。撃ってすぐにMへ逃げて帰ったんじゃけんどの。ありゃMとの抗争じゃがい」


ずっと前に新聞紙上をにぎわせた事件の話だった。

MというときはMの方角に顎(あご)をしゃくって西を顎指しする。

組長が自宅玄関 前でMの組員にピストルで射殺されたことがあった。


あの一件は山内の自宅のすぐ近くで起っていた。

はじめてのお客にはめずらしい話としてさらりとふれておくようにしている。

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