第30話 世間話
土地を買うときにおしゃべりな山内が安藤にいった世間話のひとつだった。安藤洋は純の父親である。安藤としてはべつに誰が裏社会とつながっていようが、そんなことはどちらでもよかった。
堅実な彼としては
『この男は鎧(よろい)で身がまえている』
気がした。彼はいつも人の本質をみるようにしていたからだ。
本音の部分では人を誰も信用していない山内がかもしだしている雰囲気がうさん臭かった。『こんな土地は買わないほうがいいのかもしれない』
頭の奥のどこかで、半鐘ががんがん鳴る。
耳もとで
『あやしい、気をつけろ』
とささやく声がする。
山内の作戦は
安藤の場合かえって不信感を抱かせる結果になった。
なんども商談を重ねているうちにその誤解はとけた。
『女が化粧をしているようなものだ』
安藤はみぬいた。山内のように口から先に生まれた男とのつきあいが、今までまったくない。
どちらをむいてもまわりは真面目一方で、無口な上に無骨(ぶこつ)な男ばかりだった。
冗談もろくに通じない不器用な堅物しか知らなかったから、免疫をつけるのに少々時間がかかってしまった。
山内は山内で、長年つちかってきた自分の勘(かん)を信じていた。安藤はある程度信用がおけるとふんでいる。それだけで商談は成立したようなものである。
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