第25話 ダイナソー 1

 こんどの話の口火をきったのは純だった。

「何年かまえ、アメリカのテレビ番組でダイナソーってあっただろ。

みたことないかな」


「どんな番組だったっけ」

龍はどうやらみた記憶がないらしい。

「絶滅した恐竜を現代にタイムスリップして連れてくるという、

実写版の番組なんだ」


「それなら、わたしみたことがある」

孝が覚えていた。

数年前に純はアメリカのテレビ番組ダイナソーをみたことがあった。

白亜紀の時代にタイムスリップする話である。


空間がとつぜん渦を巻いて溶け、ゆるんだ空間をくぐりぬけて過去に

タイムスリップし、恐竜に遭遇する物語だった。ゲートの中に誘いこんだ恐竜を捕まえ、現代に連れかえるというありえない冒険話である。


先日、純の家でその番組と同じことが起きた。座敷の壁がいきなり渦を巻いて溶けたことがあった。庭に面した大きな掃き出し窓のすぐ隣の壁が、大人でも入れる直径50cmほどの大きさに渦巻いて溶けたことがあった。テレビ番組と同じだった。


壁がゆるんで、純を誘っている気がした。

『この渦に飛びこんだら、どこまで飛ばされてしまうのかな。

もし恐竜がいたらどうしよう』


怖かったので、そのままずっとみつづけたままでいた。どうなるのか気になったけど『万が一吸いこまれるといけない』

から3mほど離れた敷居からずっとみ張っていた。飛びこめなかった。


だからといって、離れられない。溶けた壁はしばらくの間そのままだった。

やがて根負けしたように、普通の壁に戻っていった。

時間にして10分余りだった。あれはいったいなんだったのだろう。


なんの誘いだったのか。もし入っていたらどこまで飛ばされていたのだろう。

無事に帰れたのだろうか。帰りの便のぶんもあの渦巻は残っていたのだろうか。

もし帰りまで渦が待っていてくれなかったらちょっと怖い。


片道切符じゃ冒険できない。切符の保障のない世界はどことなく心もとない。

純はどちらかといえば怖がりだから、渦を巻いて溶けている壁になんかとても入れない。誘いに乗る気にはなれなかった。


『確かめてみたい』

気はしたけど、無茶なことなんかしたくない。だいいちできない。

そのいきさつをみんなに話した。

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