第26話 ダイナソー 2

すると啓が

「ぼくん家(ち)の壁でも、そんなになったことがあるよ」

とあっさりいう。


「それでね、ぼくはどこへいけるのかなと思って、思いきって飛びこんでみた」

「ほんとうに、すご、啓君って勇気があるんじゃ。無事に帰ってこれてるし、それでどこまでいけたん」


「自分家の庭に出ただけだった。溶けていたのはリビングの壁なんだけど、

その壁をスーっと抜けて、気がついたら自分家の庭に出ていた。

リビングから庭へ出ただけだった」


「帰りの渦はあったん」

「転がり落ちたとこが家の庭だったもんだから、安心してなんにも確かめなかった。振りむいて渦を確かめていたらよかったのにね。ちょうど武下さんが畑の草取りをしていたんだけど、その近くに転がり出てた。


武下さんがびっくりしとった。靴もはいてなかったし、服も足も泥(どろ)だらけになって汚れていたもんだから

『ちっとも気がつかなかった』

って驚いとった。武下さんっていうのは義父が亡くなってから、家や庭の手入れなんかをしてもらっている人なんだ。


『畑の土がフカフカして気持ち良さげだったから、裸足で歩いてみたかったんよ』

とかなんとか、しどろもどろでごまかしたけど、信じてくれたかどうかあやしい。

まさか溶けた壁を抜けたともいえないし、信じてもらうのに苦労した。


義父はもう亡くなっていないから、玄関へまわっても鍵を開けてくれる人が誰もいない。だからズボンをまくしあげて、庭の水道で泥だけおとして、勝手口から風呂場まで四つんばいで這っていった」

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