第22話 踏切 6

次の日帰るとちゅうで、純は公園へ立ち寄った。

啓はこっそり後をつけていたことなどおくびにもださない。

偶然通りかかった風を装う。


「偶然じゃね」

自転車に腰をかけたまま片足をつき、純に話しかけた。

「あれっ、本当」


「家、この近くだったっけかな。なにしとるん」

「ボーッとしとった。家はここからちょっと先を曲がったとこ、すぐ近所」

啓は自転車をとめた。


慎重に気づかいながら、ベンチに座っている純の隣に腰をおろした。

しばらく微妙な沈黙が二人の間に流れる。

「なんか辛(つら)いことがあったんじゃないん」


ちゅうちょせず、いきなり啓は切りこんだ。

「うん、ちょっと」

純の口は重かった。なにもいわない。


春に馬背渓谷への小旅行で、由紀が

「侍の落ち武者姿の霊魂がささやいてくる」

っていうのをみんながきいているのだから、今さらなにも啓に隠す必要なんかない。


純は気が弱く、人の噂になることや、目だつことを嫌う一面があった。

『うかつに霊だの悪霊だのといった話をすると、変に思われるんじゃないか』

人の目ばかり気にする。


「ぼくのことなら気にしなくてもいいよ。なにをきいても心配いらないから。

いえば少し楽になるかもしれない。きっと心が軽くなる。

ぼくだったらなにをきいても平気だよ」

それでもいえない。ふんぎりがつかない。


啓は純のようすをそっとうかがいながら、ゆっくり切り出した。

「じつはぼくはね、人のオーラがみえるんだ。気味悪がらないでね。

お願いだから。いつもの君のオーラはとても輝いていてきれいなんだけど、

今日は少し曇ってるっていうか、澄んでいなくって、くすんでいる。


だからなにか辛(つら)いことがあったんじゃないかなって思ったんだけど」

口火を切るために、しかたなくオーラのことだけを告白した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る