第21話 踏切 5
佳奈を責める醜い心がぼくにあるから悪霊にとりつかれた。
そう考えれば納得がいく。
『もう佳奈を責めずに許そう』
そう決めた。そうしないとぼくは生きられない。
『素直で清らかにいつも優しい心でいられるよう、誠実に真摯(しんし)に生きる』
それしかない。自分を変えなければいけない。
『それだけではないかもしれない』
純にはまだ
『他にお試しシートが残っている』
気がした。不安で一杯だった。いつまでも踏切のことが頭から離れない。
そこで純は原点に戻ることにした。考えなければならない大切なことは
《命が助かった。死ななかった》
という事実だった。不思議でしかたがない。
なぜ他の6人のように死ななかったのだろう。必ずなにかがある。
死なずに生かされていることには意味があるはず。それはなんだろう。
マイナス感情は同じでも、死んだ人と自分との違いはなにか。まだわからない。
これから先の人生はおまけで拾った人生である。大切なのはそれに
《気づいた》
ことだ。純は一度死んでいる。
『悪霊はぼくを殺しそこねた』
偶然(ぐうぜん)助かっただけで、本当はあのとき確実に死んでいた。
偶然、いや偶然なんかじゃない。
『必然だったんだ』
まだ生きて、なにかするべきことがあるから、死ななかった。
多くの人がこの踏切を毎日通っている。悪霊はいつも餌食(えじき)を物色し、
探し求めていた。病院から踏切まで約2百メートルの距離がある。
それだけの距離、いつもアンテナを張りめぐらし、うまく純をキャッチした。
『なぜ生贄(いけにえ)になったのか』
愕(がく)然とした。
『《悪霊の思い》と《純の思い》が《共鳴》したのではないか』
ということに気がついた。たがいに引きあい、その結果とりつかれてしまったのだ。悪霊と同じ強烈な悪感情にとらわれていた。
ようやく気がついた。他の被害者のことはわからない。
けれど自分のことならよくわかる。
『死ななかったということは、まだ自分が死ぬべき刻(とき)ではなかったということ。まだ生きてなにか人様の役に立つ使命がある』
あまりにも漠(ばく)然としすぎていて、今はまだなんにもわからない。
その答えがわかるまで、この命を大切に、心を磨き上げていかなければいけないと、
純は決心した。
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