第22話 ルビーライト4

「ハァー………お母さん怒ってたなぁ………」

 自室にて、グロウスターが溜め息を吐く。原因は魔法少女として活動していることを隠しているからなのだが、グロウスターはそれを母親に伝えようとは少しも考えていなかった。

 思春期特有の気恥ずかしさや、女手一つで頑張っている母親に迷惑や心配をかけたくないというものであった。


「………っ!イクリプス!?こんな時間に………!」


 今日の反省はどうしたのかと、母親にどやされることを覚悟して、グロウスターは窓から飛び出した。


「こちらグロウスター!出動します!」

『了承します。現在向かっているのはキュアザワンダー、ホープスカイです。』

「了解!」


 キュアザワンダーは確か回復だったわね。それとホープスカイは飽きもしないで高速移動。火力が基本メインなのは私だけ。頑張らないと!









「やけに小さいわね……………」


 いつもと少し違うサイズ感のイクリプスに、若干の疑問が過るグロウスター。しかし、考えても仕方がないと一気に距離を詰めて一撃を放つ。


「グローリーシュートッ!」

 勢いを乗せた飛び蹴りを食らい、グロウスターを警戒する犬型イクリプス。

「グールルルルルルル………………」

「ほーらほら、あんたの相手はこっちよ!」


 グロウスターは周囲の被害が少ない場所を選んでポインターを発射した。


「ガウルルルルルルル!」

「無視なんてしてないわよ!」


 噛みつくように顔を出してきたイクリプスをヒラリと躱し、手刀を叩き込む。


「ホープスカイ到着ー積載一人ー!」

「キュアザワンダー!運ばれながら到着しました!」


 まだマナを使った飛行が不慣れなキュアザワンダーをホープスカイが抱えながら現れた。


「キュアザワンダーは後ろからサポート宜しく!ホープはいつも通りね!」

「はいはーい、人使いが荒いんだからー。

 じゃ、キュアちゃん。また空のデートしようねー。」


 イクリプスに狙われないであろう場所にキュアザワンダーを降ろしたホープスカイは、投げキッスをしつつ高速でイクリプスに向かっていった。




「ほい、撹乱するからボコしてよねー。」

「はいはい。」


 魔法少女になった時期は一年ズレているものの、実際は同い年の二人は仲が良く、軽口を叩きながら背中を預けるパートナーでもあった。



「フルーグフリューゲル!」


 ホープスカイの背中に翼が展開され、羽をはためかせながらイクリプスの注意を逸らしていく。


「余所見禁物!グローリーパンチッ!」

「きゃうん!?」

「な!?可愛い声出してんじゃないわよ!」


 意表を突かれるものの、すぐさま攻撃を再開したことにより、イクリプスは満身創痍になっていた。


「よっと、ホープ!」

 側転でイクリプスと距離を取ったグロウスターがホープスカイに合図を送る。

「もう?じゃ、空の旅はもう終わり。あるのは果てしない青ただ一つ!フェーダーエクスプロードッ!」


 その時、舞っていたホープスカイの羽根がなんの前触れもなく爆発した。もちろん中心にいたイクリプスは当然避けることも出来ず、その爆発に巻き込まれた。



「フゥー、キュアちゃーん!翼のケアお願ーい!」

「あ、はい!」

「…………呑気ね。」

「第二回戦への下準備さ。用意周到だと、褒めて欲しいね。」

「はいはい、立派立派。」

「だろー?」


 二人の予想は当たったようで、先程のイクリプスの姿が狼のようになり、体長も五メートルを越えていた。



「そうだ、久し振りに見せてよあれ。」

「え?………あぁ。」

「可愛い新人ちゃんの度肝を抜いてやろうぜー?」

「………しょうがないわね。特別よ。」













「あ、あんなに攻撃を食らったのにまだ倒れてないんだ…………」


 しかももっと怖くなってるし、黒いオーラみたいなのが出てる!?で、でもお二人とも全然動揺してない…………予測してたのかな…………?


「ありがとキュアちゃーん、また待機ヨロー。」

「はい!頑張って下さい!」

「いやぁー素直な子は良いねぇー!」


 ホープスカイさんは今回が初対面だったけど、気さくな感じで良かった。

 じゃなくて!今は戦ってるんだから!集中しないと!


「キュアボール。」


 私の周囲にいくつもの球を出し、怪我をした人に向かって投げる物。

 もちろん回復しますよ!私の肩は貧弱だけど!



 あれ……?ホープスカイさんが囮になってるのは変わらないけど、グロウスターさんは何を?










「ジュエル、セレクト。」

 腕のブレスレットに話し掛けるようにグロウスターが呟くと、そのブレスレットに付いていた宝石から小さな樹木が現れた。

『承認。サファイア、ルビー、パール、タンザナイト、アズライト、アナテースがセレクト可能です。』

 

 これこそグロウスターの精霊。ジュエルツリー。

 意思の乏しい精霊だが、その強さは折り紙付き。


 グロウスターは現れた樹木からルビーを抜き取り、ブレスレットに樹木を収納した。



「インテンフィシケーション。ルビーライト。」

 ブレスレットにルビーをスライドさせるようにセットした。するとグロウスターの目と髪の毛先がルビーのように赤く輝きを放った。




「邪魔だホープ!一撃で決めるッ!」

「うげ、よりによってルビーかよー。大分ストレス溜まってるなぁー?」


 ホープスカイが苦笑いをしながらイクリプスから離れ、ついでにキュアザワンダーを回収した。


「え?えっ!?なんで?」

「ごめんよーキュアちゃん。あの時のスターは見境なくなっちゃうからさ。」

 少し呆れたように呟くホープスカイ。

「えっと………あれは一体?」

「ふふーん、あれはグロウスターの精霊の授能の一部だよ。木が果実を実らせるように、あの精霊は力の源である宝石を実らせるわけ。

 それを消費して一時的に自身を強化するんだー。」

「わ!すごいです!………それならあの、デンジャーには使わないんですか?」

「んー?あぁ、プラントクイーンとバーサークデーモンね。あれ使うとなんでか知らないけど、スターって性格変わっちゃうんだよね。多分その宝石によって違うんだけど、ハズレを引くと凄く弱くなっちゃうからこーゆー信頼できる人がいる時かつ、周りに人がいなくて敵が弱いときじゃないと使わないんよね。」

 ホープスカイは信頼できるのタイミングでニヤニヤと笑いながら自分を指差しながら喋る。

「そうなんですね……………」

「ん、昔それでミスってたしね。」

「え?」

「ごめん、なんでもないよー。」

 良く聞こえなくて聞き返したキュアザワンダーだったが、ホープスカイはなんてことないように返し、鼻歌をし始めた。


 数秒後、大きな爆発音がしたことで二人がそちらを向くと、大きなクレーターの中心に紅く染まったグロウスターが立っていた。

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