第21話 ルビーライト3
「流石に息も絶え絶えでしょ!」
「スター。それはフラグになりますよ。」
「………え?」
「そんなもの関係なく、私は無事ですけれど?」
モクモクと漂う砂煙を片手で払いながらウィンクをする椛。見たところ、外傷一つついていなかった。
「………解せません。バーサークデーモンといいあなたといい、私の聖神罰が全く効かないなんて。イクリプスならどんな存在であろうと一撃で屠るというのに………………」
「珍しく饒舌ね。余程悔しいのかしら?」
椛は満足そうに笑うと、再び蔦を展開する。
「ちょっとバランス!どうする!?」
「……………測定……………終了。」
「何か良い案でもあるの!?」
「三十六計。」
「さんじゅ…え?」
「さようなら。反転秤!」
悠然と構える椛に対しクライムバランスは手を振った後、忽然とグロウスターごと消えてしまった。
それと対照的に、その場にはどこから現れたのか二人の魔法少女姿の写真が落ちていた。
「逃亡の手段もあるのね……フフ、思わぬ収穫だわ。」
椛がただ嬉しそうに笑った後、落ちていた写真をビリビリに破いてその場を立ち去った。
「それで無様に逃げ帰ったってカッ!ギャハハハッ!」
いつものログハウスのソファにて、星形のクッションを抱えて笑う悦。
「えぇ、やはり私は高みへと登りすぎたようですわね。下の者達のために、少し遊んだ方が良いかもしれないわ?」
声のトーンが少し上がった椛は、手にもったカップをゆらゆらと揺らし、紅茶の香りを楽しみながら喉を潤した。
「それで?今日は集まる日じゃない筈だけど、なんで呼んだのかしら?」
「あぁ、それな。」
椛の問いに悦は身体を起こして自慢げに
「家取り壊されたわ。」
「…………………え?」
予想外の言葉に椛は目を点にした。
「ま、元々家賃払ってなかったし、なんなら不法侵入だったからにゃぁ。もちろん荷物は避難させてたぜ。」
悦はそう言ってソファの脇に置いてあった荷物一式を八重歯を覗かせながら持ち上げた。
「ハァー………………それで?」
言いたいことや聞きたいことを全て飲み込んで、額に手を当てながら尋ねる椛。
「ここ、住んで良いカ?」
「…………まぁ、ちゃんと綺麗にするならね。」
「サンキュ、ここのが学校近いからよ。助かるゼ。」
許可が降りたことで早速とばかりにブルーシートを敷き、潰れたダンボールを取り出すとそれを組み立てて机のように置いた。そしてその回りには制服や学校関連の物、それと複数の写真立てのみが置かれた。
「少ないわねぇ…………」
「ケヒ、私みたいな貧乏人はこんなもんだろ。」
「あら、そうなのね。」
すぐに興味が失せたのか、椛はまたティータイムに戻った。
「いった!」
とある一室の棚の上に尻餅をついたグロウスターと、器用に降り立ったクライムバランス。
「んあっ!?………なんだグロウスターとクライムバランスか。………………うん、無事みたいで何よりだよ。」
その部屋、司令官室にいた杉田は驚きつつも二人の安否を確認していつもの威厳ある顔つきに戻った。
「お疲れ様です、司令官。クライムバランス、グロウスター共に生還いたしました。」
「っ!致しました!」
「うん、どうやら上手く行ったみたいだね。」
杉田は柔らかく微笑むと、棚の上にまた写真を用意しなければと考えていた。
「はい。この力、さらに使いこなして見せます。」
クライムバランスが珍しくやる気に満ち溢れるように意思を固めた。
「うんうん、頼もしいね。」
「あ、あの………ごめんなさい!」
「うん?」
「私………仇を…………………」
「グロウスター。焦ることはない。君は成長する、強くなる授能だ。一歩一歩確実に、それで良いんだ。」
「はいっ!」
「さ、疲れたろう。ゆっくりと休みなさい。」
「はい、司令官の御言葉に甘えさせていただきます。」
「あ、じゃあ…………あぁぁぁあ!!」
二人が杉田の言葉に従おうとした時、グロウスターが悲鳴ともとれる絶叫を上げた。
「ん?」
「どうしたんだ?グロウスター。」
「お母さんに内緒で抜け出しちゃった!どうしよう!」
「あぁー………とりあえず帰った方が良いかもな。」
「健闘を祈る、スター。」
「うわぁぁぁぁん!他人事だからってぇええぇぇ!」
グロウスターは涙目になりながら、部屋を出ていった。そんな姿を見て、残った二人は顔を見合わせて少し笑った。
結局窓から戻ろうとした所を母親に見つかり、罰として夕食のおかずが一品減らされたグロウスターであった。
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