第20話 ルビーライト2

 相対した椛とグロウスター。グロウスターが変身しようと宝石を翳すも、今自分がいる場所を思い出して躊躇する。グロウスターは両親に魔法少女であると告げておらず、なんならパジャマ姿であることを思い出したからだ。


「世話が焼ける子ね。」

 椛がそう言って指を動かすと、蔦の上に自分とグロウスターを乗せ、人気のない山を目指して進んでいった。

「きゃ!?何を!」

「落ちても助けないわよ~?」

「ぐっ………覚えてなさいよ!」

「そうね~、よっと。」

 蔦の動きがゆっくりとなり、地面が近付いたことで椛はヒラリと地に足をつけた。

「確かにここなら巻き込むこ……ふぎゃ!?」

 周囲を注意深く確認していたグロウスターだったが、蔦が突然グロウスターを落としたことで尻餅をついてしまった。

「いたたたた………………」

「呑気に座ってるからよ?」

「んぐぐぐ!絶対許さない!」

 情けない姿を晒して余程恥ずかしかったのか、顔を赤くしながらブレスレットとしてつけている宝石に触れ、お決まりの口上を披露する。

 

「瞬く流星!燃ゆる魂!この手で掴む!グロウスター!」

 纏った光が弾け、グロウスターがファイティングポーズを取る。

「う~ん、私も口上考えようかしら?」

「来ないのなら今すぐ殴るわよ!」

「あら、待っててくれるなんて、優しいわね?1ポイント加算して上げる。」

「いらないわ、よッ!」

 グロウスターの渾身のパンチが椛の蔦によって防がれる。

「ふふふ、攻略したんじゃなかったかしら?」

「小手調べに決まってるでしょ!」


 グロウスターがそう言って一度距離を取ると、思い切り踏み込んだ跳躍で天高く飛び上がり、回転を利用したかかと落としを繰り出した。


「舐められたものね!」

 少し不機嫌そうに声を荒げ、周りの樹木から太い茨を生成し、まるでクモの巣のように展開する。

「そっちこそ舐めんじゃないわよ!スターバッシュ!」

 右手を握り締め、水平に振る。そこから射出されたマナが流星のような軌道で茨に突撃していく。

「あうっ!?」

 茨は全て消え去り、爆発の煙を引き裂いて迫るグロウスターの一撃を椛は諸に食らった。

「ふ、そろそろ本気出せば?」

 直撃した後バックステップで距離を取り、ニヤリと笑いながら椛に挑発をする。

 グロウスターの繰り出したスターバッシュ。これは、彼女がとある先輩の遺した動画に映っていた技を模したものだった。それが上手く決まったことにグロウスターは嬉しそうに頷いた。


「そうね、そうみたい。ちょっと、本気出すわ?」

「顔を崩さないように必死みたいだけど、青筋立ってるわよ?意外と感情的なのね?」

 

 二人の間に暫くの沈黙が流れ、その間にお互いが力を溜めるようにマナを集中させる。

 椛は全身に茨を纏い、深呼吸して笑みを浮かべた。

 一方グロウスターは右手の拳を心臓に重ね、最大限までマナを高めたところで両目を開いた。

「…………潰すわ?」

「…………ぶん殴る!」

 二人の言葉が重なり、同時に地面を蹴って突撃する。


「グローリーパンチ!」

 グロウスターのパンチを真正面から受ける、と見せかけて腕を引っ込ませた椛は、グロウスターの身体を崩すように横に滑り込み、グロウスターを右足一本で転ばせた。

「あなた、重心の使い方が素直すぎるのね?分かりやすくて欠伸が出るところでしたわ。」

「フン!」

 なんとか受け身を取ったグロウスターは、両手で器用に自身の身体を持ち上げ、足払いを繰り出す。

「あら、危ないわね!」

 それを察知すると、素早くジャンプをしてグロウスターの攻撃を躱す。しかし、グロウスターはそれによって追撃を食らうことなく体勢を立て直すことに成功した。


「やるじゃない。」

「これでもランキング一位だから!」

 自分を鼓舞するように声を張り上げ、再び攻撃を繰り出す。

「あら、矜持があるのは素直に尊敬するわね。

拍手拍手~。」

「バカにしてんでしょ!」

 椛の態とらしい態度にも言葉では興奮したように返したものの、目線は椛の隙を逐一確認していた。


「成長に目を見張るわね。これが、子どもの成長……これが、母性…………?フフフ。」

「気色悪いこと言わないでくれる!?」

「冗談よ?」

 不敵な笑みのまま、グロウスターの攻撃を全て往なしていく椛。余裕のある顔で対処されることに若干苛立つグロウスターであったが、雑念を振り払うように拳を握る。


 複数の攻防の後、グロウスターの上段蹴りを椛が優雅に躱して距離を取ったことで、お互い息を整える。


「遠距離特化みたいな見た目のくせして、近接も出来るとかどうなってんのよ……………!」

「あなたと格が違うと、いうことでしてよ?」

「でも……………負けることはない!」

「その自信はいったい何処から湧くのかしら?このままあなたは私に…………っ!」


 言葉を紡いでいた椛の全身に鎖が巻き付く。


「ナイス!」

「そちらこそ、ナイスですスター。」

 グロウスターが駆け寄り、鎖を出した人物とハイタッチをする。

「っ、……………フフ。伏兵がいたとは、脱帽です。クライムバランス?」

「ビックサプライズ、渾身の一撃。

業の測定及び解析を終了。聖神罰!」

 クライムバランスが茶目っ気溢れるポーズを取りながら棒読みをした後、何時もの無機質な声で終わりを告げた。

 放たれた白光が辺りを包み込んでいく。

 

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