第19話 ルビーライト

「先週発生したビック・ベン襲撃事件を受けて、各国は今回の首謀者二名をデンジャーと呼称し、国際指名手配をする意向を─────」


「お?私らじゃん。」

「えぇ、だけど日本政府が情報を流さない限り、私達のホームはバレないわ。よくて、アジア圏ってとこかしら。」


 何時ものごとくログハウスに集合した二人は、テレビの画面を見つめながらお菓子を食べていた。


「しっかしなんで言わないんだ?あたしらが日本人だって。」

「あれよ、周囲の目が気にしいなのよ。日本人はよく体裁を気にするでしょ?」

「隠してバレた方が印象悪くなるんじゃね?」

「それでもよ、長年対処できなかったのだから、日本の魔法少女の実力が疑われ、他国から魔法少女が派遣されるかもしれないでしょ?」

「ン?何が悪いんだ?」

「国民にとって、魔法少女は強さこそ一番。そんな中、外国の魔法少女に民意が向いたら?」

「ほんほん、乗っ取りとかの警戒ってことカ?」

「可能性の話よ。自ら不利になろうとする馬鹿なんていないでしょう?」

「そーだナ。」

「まぁ?今の日本のトップは、使い物にならないでしょうね。」

「ゑ?ボコボコにされてたくせに偉そうだなァ?」

「フフフ、その口いつでも塞げるのよ?」

 椛がクスリと笑うと、髪の毛から茨が這い出してきた。

「なんのホラーだヨ。でも事実ダロ?」

「グロウスターはきっと隠し事とかが苦手でしょう?私達の正体、またしても起きた身近な人の死、トップの重圧、守っていた人々からの非難………………今の彼女にまともな精神力はない筈よ。」

 一つ一つ楽しそうに数える椛を、逃げたなとジト目で見つめる悦。

「なんか見てきたみたいな口振りダナ。」

「もちろん、確認したわ。絶賛引きこもりみたいね。」

「うへぇ、ストーカーかよ……………」

「獲物に全力を尽くすのは、当然でしょう?」

「はぁーやだやだ。」

 悦はにじり寄ってきた椛の蔓を手で払い除けると、三色団子を一気に口で引き抜いた。


「そういや、非難?ってどういうことだ?」

「もちろんイギリスの国民よ。これは私達が原因だからグロウスター以外にも、現場にいた魔法少女は厳しいことを言われてるわね。

 もう一つは、日本国民からよ。」

「ふぅーん?」

「彼らからしたら、私と狂が日本を拠点にしてるって知ってるから。でもその情報は一切出回らず、世界に発信しようにも投稿してすぐに検閲される。

 その魔法少女サイドへの不信、不満がグロウスターに集中してるってとこかしらね。知恵が回る人は遠回しの言葉で抵抗したり、非難してるみたい。」

「…………なるほどな。」

「私、妙案があるのよ。」

「………………………言いたいことは分かったけどパス。別に仲間を増やしたいわけじゃないから。」

「あら残念。それにあなたにしては珍しく察しが良いじゃない。それじゃあ、結果を楽しみにしていてね。」

「無理だと思うけどにゃぁ………………」

「別に構わないわ。面白そうだからからかいに行くだけよ。」

「うっわ迷惑ゥ~」

 ドン引きした悦を気にすることなく、椛はスキップでログハウスを出ていった。













「凛花ー学校行けるー?」

「ごめんまだ体調悪いかも……………………」

「ふぅー、私の顔は五日までよー!」

「分かったー……………」


 部屋の前から母親の足音が遠退いていくのを確認して、魔法少女グロウスターこと、田附凛花がくるまっていた布団から顔を出した。


「………………師匠、私は……………………」

 

 もういない人物を妄想し、枕に顔を埋めた。


「ジェミーさん、アイラさん…………」


 自分を信頼し、共に戦ったジェミー。

 初対面にも関わらず、友好的に他国との繋がりを持たせてくれたアイラ。

 時間は短くとも、グロウスターにとっては既に大事な人になっていた。





「情けないわねぇー。」

「?………………っ!!プラントクイーン………!」


 換気のためにと開けておいた窓が蔦で覆われ、その窓のレールに椛が座っていた。


「ここまで腑抜けてるなんて、ねぇ?」

「なんでここが………いやそれよりも!何しに来たの!」

「うふふ、急いては事を仕損じるとは言うけれど、あなたがお望みなら単刀直入に言わせて貰うわ。

 こちらに来なさい、グロウスター。」

 椛はにこやかに微笑みながら右手を出した。

「は?一体何を………」

「理解できなかったかしら?簡単よ。

 今背負っている重荷を放り投げて、自由に楽しもうってデートの誘いよ。」

「お生憎様。間に合ってるわ。」

 意図を理解したグロウスターは、布団から立ち上がると、毅然とした態度で言い放った。

「あら?本当に?心の奥底ではこう思ってるんじゃないの?私のせいじゃない、私は悪くない、私は道具じゃないっ、て。」

「っ……………………さい……………」

「なにかしら?もっとハキハキ喋って?」

「うるさい!あなたと喋ってるとなんだかイライラするの!」

「うふふふ!それは図星………あらあら。」


 椛が言葉を続ける前に、グロウスターが投げたシャーペンが椛の横を素通りして壁に突き刺さる。


「外に出なさい!決着、つけて上げる!」

「人にものを投げるなんて危ないわ。御説教をしないとね?」

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