第18話 ダブルハイヤー7

 善戦をするサナとグロウスターだったが、周囲は既に満身創痍な魔法少女ばかり。椛は余裕がないのかはたまた興味がないのか、過剰に深追いすることはなく、戦意喪失に止めていた。


 しかしそれが効果的だったのか、連鎖するように魔法少女達は地に膝をつけていった。



「うっふふふふ、あっはははは!まるで蝿たたきね!あとどれくらい飛び回れるかしら!?」

 椛が腕を振る度に魔法少女達を地面に叩き落とす幾本もの蔦たち。その絶対的な出で立ちは、魔法少女だけでなく、市民ですら、動きを止めて見上げることしか出来なかった。


「クソっ!このヤロぉー!」

 一人の魔法少女が自暴自棄となって椛に殴りかかった。

「あらら?全身ピアスでもしたいのかしら?」

 椛はそう言って笑うと、茨を伸ばしその魔法少女を勢いよく目の前の建物に飛ばした。

「あ、あが…………」

 件の魔法少女はまだ動けてはいるが、息も絶え絶えであり、戦線復帰は当分見込めない状態となった。

「本当、魔法少女って丈夫よねぇ。でも頭が問題ね、私が男に見えるなんて…………」



「許さないっ!」

 そんな所業を見て怒りに燃えたグロウスターは、死角からの攻撃に成功した。

「痛いじゃない。」

「分かったのよ!攻撃して離脱するを繰り返せば、あんたを倒せるってね!」

「喋ってよかったの?」

「防げるなら防いでみてよねっ!」

 グロウスターはニヤリと笑うと、自分とサナ、そして影を含めた四人でヒット&アウェイを繰り出していく。


「チッ、鬱陶しいわね!」

 防ごうとする椛だったが、蔦は大きすぎて四つの存在を追いきれず、茨は展開するのに時間がかかるためか、当たっても掠る程度。ダメージの蓄積は遥かに椛に溜まっていく。


「ナイスよスター!反撃できて気分が良いわ!」

「サナこそナイス!」

 二人は短くも確かに親睦を深め、またしても厄介な敵を追い詰めんと突撃していく。




「ギャッハッハッハッハッハッ!」

 その時、戦場に不吉の声が響き渡った。

「この声は…!」

 ただ一人この場でその正体を知るグロウスターは、覚悟を決めるように拳を握った。



「茨~?随分やられてんじゃねぇカ?」 

「っ、そうね、今回ばかりは認めざるを得ないわ。」

「ありゃ、珍しい!明日は槍でも降るのかねぇ?」

「そんな悠長なこと……!」

「分かってるさ、あの四人に苦戦してんだろ?だったら、手っ取り早く半分に減らせば良い。」

「術者が分かるのかしら?どういう絡繰?」

「ハッ、んなもんねぇヨォ。じゃ、減らせるまでに負けんなよ。」

「言われなくても!」

 悦はその言葉を背に、ある一人の元へと高速で飛ぶ。







「っ!新手!」

 狙いは自分だといち早く気付いたジェミーが、周りの仲間に指示を飛ばす。


「ヘェ?流石ぁ。」

 悦がジェミーを完全に捉えた時には、既にイギリスの魔法少女達による鉄壁の布陣が完成していた。

「だぁ~けぇ~どぉ~もぉッ!」

 しかしそんな布陣は無駄だと証明するように、悦が生成したハルバートがイギリスの魔法少女達をまるで紙のように切り裂いて行く。

「力不足ってな。」

「なっ!?」

 悦がハルバートを消したときには、ジェミーの周囲にいた護衛は全て沈黙してしまった。


「っ、よくも……………!」

「ア?何怒ってんだ?殺し合いなんだから……」

「何故殺し合う!お前も魔法少女だろう!」

 怒りに震える指で悦を指差しながら思いをぶつける。

「はぁ?は、はっ…………ハッハッハッハッッ!」

「何故笑う!」

「ハァー……ハァー……まぁ良いや。アイラの次はお前だ。」

 笑い疲れたのか、悦の顔が真顔になり、手にアイラの時に手にしていたマナを纏った片手剣を作る。

「貴様、アイラに何をした!」

「ウルセェナァ………てめぇはもう何も出来ないんだろ?なら大人しく死ねよ。」

「ただでやられるつもりは……」

「アイラと同じようになァ?」

「……あ………………」

 悦の言葉に動揺したジェミーの身体が、悦の片手剣により切れ込みが入る。

「………ケッ、餌と見るや群がるなんてよォ。主人に似て意地汚いねぇ。」

 悦は生命活動の停止したジェミーを覆うように群がる蔦を見つめ、鼻をならした。







「なっ!?」

「嘘っ!?」

「あら、どうやら私達の勝ちですわね。」

 影が消えたことで攻撃のリズムが崩れたところを椛は見逃さず、サナとグロウスターを蔦で地面に叩きつけた。

「ふぅ、狂は上手くやってくれたようですわね。今度良いお菓子でも渡すとしましょうか。」

 椛が勝利の余韻に浸っていると、悦が隣に降り立った。

「そろそろ帰るか。」

「えぇ、そうね。」

「あ、外のじゃなく中の蔦も回収しとけヨ。」

「それはどうして?」

「捕まえてた奴死んだから。」

「あら、そうなのね。栄養たっぷりの子を忘れるところだったわ。」

 椛はそう言ってスキップでビック・ベンに入っていった。



「いやぁ、にしても良い眺めだねぇ。」

 壊れかけの街と数多くの倒れる魔法少女達を見下ろし、くつくつとギザ歯を出して笑っていた。

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