第16話 ダブルハイヤー 6

「まぁ、こんなにお出迎えがいるなんて。」

 椛がビック・ベンから姿をみせた瞬間、圧倒的な質量の攻撃が降りかかる。

「それに………」

 椛が右手を凪ぐと、無数の茨がそれらの攻撃を弾いていく。

「挨拶にしては豪華ね。」


 椛の姿を確認した魔法少女達の内、近接型が飛び掛かる。その中にいた日本の魔法少女グロウスターは、嫌な予感が的中したことで少し青い顔をしていた。


「ふぅーん、あら見知った顔。ふふふ、どんな風に歪めようかしら。」

 つまらなさそうな顔から一転、心底嬉しそうに顔を歪めた。





 












 なんで……なんでプラントクイーンが! 

 なんとか心象よく乗りきったのに、これじゃあ日本の印象が悪くなっちゃう! 

 いや、落ち着くのよスター。相手はプラントクイーン一人。周りには各国のトップ魔法少女。ここで倒せれば、バレなきゃ言いはず!


 それに、プラントクイーンがいるならバーサークデーモンもいる。警戒しておかないと。………もしや先に行ったアイラさんが一人で?…………大丈夫かな………………



「遠距離、斉射!」

 アイラさんと同じくイギリスの魔法少女ジェミーさんが指揮を執り、数多くの魔法が飛んでいく。


 でも、それを意に介さずあくびをしながら茨で対処される。

 さっきの私の攻撃も茨に阻まれて何も出来なかった。戦うのは初めてだけど、よく分かる。いままでの先輩達が、あの二人の指定犯罪者を倒せない理由が。


「ダメですか…………」

「ジェミちゃん、そろそろヤバイよ、本気出すよ?」

「それはいけません!ビック・ベンを壊すわけには!それに中にはまだアイラが!」

「悪いけど、ここでヘマして世間から盛大なバッシングされるのはあんたらだけじゃないのよ。あんたの国だから言うこと聞いてあげたけど、これじゃあ拉致があかないのよ。だから、勝手にやらせて貰うわ。」

 一人の魔法少女が離れると、それに続くように他の魔法少女達も各々で攻撃を開始する。


「待て!待ってくれ!」

 

 ……………胸が痛い。この光景もだし、敵が私達の国から来たということも相まって、助けになりたいと思った。


「ジェミーさん。」

「なに!?」

「指示を。皆さんが被害を出す前に、あの女を倒しましょう。」

「っ!…………ありがとう。」

 ジェミーさんはそう言うと、後方からやってきた他のイギリスの魔法少女達が合流した。


「ヤツは手強い。各国のトップの攻撃をものともしていない。だから私の奥の手を使うわ。」

「マーキス、誰に使うのですか?」

 ジェミーさんに問い掛けるイギリスの魔法少女。

「遠距離では崩せないでしょう。………サナと、グロウスター。いいですか?」

「光栄です。」

「わ、分かりました!それで奥の手とは?」

「私の授能ですよ、双影ジェミナイ。」

 ジェミーさんがそう言うと、その両手から黒い影が私とサナさんに伸びていき、隣に同じ背格好の影が現れた。

「分身?それともコピー?」

「えぇ、そのようなものです。これを発動している時、私は無防備になります。ですのでその分お願いしますね。」

「はい!」


 でも、影ってどんな風に動くんだろう?

 私はパンチを出す。……………動かない。

 ……なら、パンチを出せ!

 そう念じると、影は私の本気と同等の速度でパンチを繰り出した。

「なるほど。」

「準備はよろしい?」

「サナさんですね?えっと、そちらは………」

「ふむ、そうですね。貴女と同じステゴロですよ。」

「そうですか…………」

 な、何で知ってるんだろう?

 いやいや、今はそんなこと考えてる暇はないね!



 丁度弾幕の切れた瞬間を狙い、影と共に突撃する。

「ハアァァァァァァァッ!」

 影と一緒に渾身のストレート!

「おや、やっと出ましたね。」

 プラントクイーンは人差し指をサッと振ると、それに従うように私達の拳を蔦が庇う。

「なにも聞かない!ただお前を倒す!」

「つれないですわ。私とあなたの………ふ。」

 隙を狙った背後からのサナさんの奇襲も、難なく防がれた。

「本当に人間かしら?」

「うっふふふふ………先程よりは楽しめそうね?」

 プラントクイーンの顔面目掛けて左フックを、影は右ストレートを仕掛けるも、またも蔦が弾いてくる。この蔦、力押し出来ないぐらい弾力がある!衝撃が吸収される!

 これじゃあ私が増えたところで…………!


「サナさん!」

「スイッチするわ!」

 私の後退に合わせてサナさんが影を盾にして突進していく。

「さぁ、今度はどんな風に来るのかしら?」

 プラントクイーンは手始めにとサナさんの影を蔦で縛った。

「その余裕、断ち切ってあげるわ!断裂!」

 サナさんの手刀が青白く光を放ち、影ごと蔦を切り裂いた。

「すごい!」

「あら。」

 サナさんは顔色一つ変えずに駆け抜け、その隣を元に戻った影が並走する。

 その行く手に蔦が迫るが

「さっきので確認済み!もう怖くないわ!」

 サナさんと影の片手が光を放ち、次々と切り裂いていく。

「そう、なら。」

 プラントクイーンが今度は蔦の代わりに茨を生成してきた。

「っ、そんなもの!」

 億さず茨を切り裂いたサナさんだったけど、一回でサナさんの手は血塗れになっていた。

「サナさん!変わります!」

「お願い!」

 もう一度私が前に出て、両手にマナを込める。

「スターショット!」

 これは拳の風圧を飛ばす技!これなら怪我もしない!

 目論み通り無傷で茨を破壊していく。何より、この影が便利だ。カバーしきれないところもこの影がいることで満遍なく攻撃できる。



 しかし、他の魔法少女達の遠距離攻撃も同時に防がれたまま、近距離に関しては半数がやられて後退していた。

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