第14話 ダブルハイヤー 4
魔法少女パーティーの一日目は何事もなく終わり、本日二日目。二日目は、世界各国の魔法少女同士の会議、話し合いが主となっている。イクリプスの傾向や対策等、昨日の表面上は和やかだった雰囲気も完全に消滅し、張り詰めた真剣な空気が漂っていた。
そんな会議を、真顔で盗聴する電波が一つ。
日本におけるダークサイドと呼ばれる、人のために戦うことを辞めた魔法少女。その四人のメンバーの内の一人、雷を操る闇堕少女サンダーソニアである。
彼女は全身を電流に変え、一人の魔法少女が所持する電子端末に紛れ込んでいた。
耳寄りな情報を求めて潜入したものの、目ぼしいものはないなと諦めようとした時。
「イクリプスにもマナを生成する力が?」
「はい、我が祖国の有能な研究家による解析の末、そのように。」
「そうか、礼を言う。」
そんな会話が聞こえてきた。
「……………良いこと聞いたわね。」
サンダーソニアは小声で呟き、真顔から僅かながら口角を上げた。
数多くの人々が待ちわびた魔法少女パーティー三日目。チケットを手にした勝者は悠々と中に入っていき、抽選の外れた敗者はそんな彼らを妬ましそうに眺めていた。
だからといって勝者に栄光があるかと言われるとそうとは限らず、細かい審査に身元調査、荷物のチェックなど、豪州の十倍は厳しい難関をクリアして、ようやく安心して呼吸が出来るような、物々しい場所へと案内されるからだ。
因みに、クリアできなければ即刻叩き出されてしまう。危険物所持の場合は問答無用で豚箱行きである。
護身用のナイフとかはギリギリアウトだが、薬箱のハサミ等の日常使いのものまで対象となる。
入場する際は気を付ける必要がある。
そんな大行列を、口をダラリと開けて退屈そうに眺める水色の髪の少女と、楽しそうに眺める黒髪の少女。
「………なぁ。」
「なにかしら?」
「飽きたんだケド。」
「あら?私は楽しいわ。人間の醜さがとても顕著で思わず高笑いを出すのを必死に堪えてるところよ。」
目を細めてにこやかに悦の方に顔を向けた。
「ホンット良い趣味してるゼ。」
溜め息をはいて腰に手を当てる悦。
「ふふ、褒めてもなにも出ないわよ。」
「サッサと今日の予定を出して欲しいもんだが?」
予定では今日、この街で混乱を起こすということにはなっているが、詳細は全て椛の管轄のため、悦は暴れたくて焦れったいようだった。
「まだよ。そろそろ見張りの交代時間だから、そこでうまく躱してから。」
椛は表情を崩さず扇子で口許を隠すと、小声でそう呟いた。
悦はうへぇ、とした表情でコイツも大変だなと少し同情した。話によると、椛のメイドに読心術を会得している人物がいるらしく、読まれないために常日頃、扇子で口許を隠す癖がある振りをして生活していると聞いていたからである。
「いやぁ、にしても残念だったナァ。パーティー行けなくて。」
悦があからさまに話題を振ると、嬉しそうに扇子を閉じた。
「仕方ないでしょ?今日はお父様に御許可を頂いて、"自分達の力だけで"ここまで来たんだもの。途中で家名を使うのは私の矜持が許さないわ。」
「へーへー、そっすねぇー。」
悦が両手をやれやれとポーズしたその時、椛から合図が来た。丁度監視が離れたという意味だ。
すかさず二人は早歩きで人混みに溶け込み、建物の中に入る。
「撒けたか?」
「いいえ、建物の中に入っているのは見られた筈よ。このまま三階まで階段でかけ上って。」
「あいあい。」
二人は人では到底なし得ない速度で段差を踏み越えていく。
「次は?」
「左奥、トイレ!」
あっという間に三階に着くと、椛の端的な指示に即座に動く。
「っし。」
悦は中に人が居ないことを確認して、短く息を吐いた。
「さ、変身して溶け込むわよ。」
椛は扇子で自信に風を送りながら優雅に笑った。
椛の指示に悦は口から黒い宝石を吐き出し、右手で握り潰した。そこから漏れ出る黒い瘴気が渦を撒き、悦をあの喪服のようなコスチュームで包み込んだ。
一方の椛は、暗緑色の宝石が着いたネックレスを見せ付けるように服の中から取り出し、人差し指と中指で上から下に撫でる。すると、そこから茨が生えて椛を包み込んだ。
「ケヒ、ハァァ…………やっぱ良い気分だナァ。」
「思ったけど、貴女の服大分まともになったわね?私が服を買ってあげてからお洒落にでも目覚めたの?」
椛が悦のコスチュームの裾を興味深そうに触っていた。
「あ?まぁ、そうなんじゃね?」
「違うみたいね。まぁ良いわ。これで隣に貴女がいても恥ずかしくなくなったわ。」
「ええ!?今まで恥ずかったってコトォ!?」
「当たり前じゃない。汚ならしいロングコートの下が全裸なんて。露出狂なのかと疑ってたわ。」
「ありゃ、ならこれになって正解かもナ。」
「言えてるわ。…………さ、その窓から出るわよ。もちろん、貴女の闇で覆ってね。」
「あいあい。」
椛のウィンクに対して、悦が唇を小指で撫でてそのまま空をなぞる。その小指から生じた黒い影がどんどん広がり、二人を包み隠すように覆っていった。
「さ、行くわよ!」
「んで?結局何処だ?」
悦は待ちきれないとうずうずしながら尋ねた。
「フフフ、あそこよ。」
窓から指差した先を、悦は目を凝らして見つめる。
「あぁ、あのデカイ塔?」
「えぇ、かの有名なビッグ・ベンよ。」
椛もまた、楽しそうに笑った。
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