第13話 ダブルハイヤー 3

「どうしたの?グロウちゃん。」

「あ、すみませんフロックさん。」

「心配無用ですフロックロックさん。最近は基本そんな感じですよスターは。」

「うーん、それはそれで心配だけど……………」


 前会った印象よりもいくらか暗い表情をしているグロウスターを見て、前ランキングNo.3のフロックロックが声をかけた。

 現在いるのはイギリスのとあるホテルのロビー。

 まだトップ層に入ったばかりのグロウスター、クライムバランス、マッドスパイクの引率として、フロックロックが事前に入国していたのだ。


「そういえば、マッドちゃんは?」

「あぁ、彼女なら……」


 グロウスターが言い終える前に、ホテルのドアを力無く開け、よろよろとした足取りでやって来た少女が一人。


「よぉ………来たぜぇ……………」

「ど、どうしたの?」

「ちょ、ちょっと空酔い、しちまったぜぇ…………」


 マッドスパイクが引きつった笑顔を浮かべた後、ホテルのロビーソファにどさりと横になった。


「一先ず私がチェックイン済ませておくわ。三人ともパスポート出して。」

「宜しくお願いします。」

「感謝します。」

「確か………頼むぜ………」

「マッドちゃんこれ、のど飴。気休めだけど。」

「助かる……………」


 三人分のパスポートを受け取ったフロックロックは受付に向かった。

 それを見てグロウスター、クライムバランスもマッドスパイクが横になっているソファに座った。



「スター。まだあのことを気にしているのですか?」

「あのことって?」

「ラックハットさんのことです。」

「っ………」


 その言葉を聞いた途端顔が険しくなったグロウスターを見て、クライムバランスは目を細めて確信にいたり、目を瞑ってため息を吐いた。


「ハァ、やはりそうでしたか。あなたの責任感の強さは美徳でもあり短所です。今は大事な魔法少女パーティーに集中してください。」


 魔法少女パーティー、それは各国の魔法少女の交流を主にしており、出席するのはその国のトップばかり。

 本来なら精霊のサポートがあるはずだが、魔法少女パーティーに合わせて精霊会議なるものがあるらしく、精霊とはパスが繋がっているのみとなっている。

 ある意味、魔法少女個人を見極めるには最適とも言える。


 もしここで精神的、能力的に劣っていると判断されると、外国へ救援要請をしても渋られる可能性があるからだ。

 他国も自国を守るのに必死なため、救援を出したら活躍してくれるような、ある意味見返りがないと救援を派遣してくれない、この世界は今やそんな風になってしまっている。

 ただでさえ、フルーツシャワーがいなくなってしまった今、日本はかなり危ない状況であり、存亡は現在の1位であるグロウスターに懸かっていると言っても過言ではないのだ。


「ごめん……………気を付ける…………」

「はい、あなたにそんな顔は似合いません。気合いでも入れ直してください。」

「そうだね………」バチンッ!「……よし!」


 グロウスターは自分の両頬を叩くと、スッと立ち上がった。


「スパイク、あなたもです。後少しで控え室に向かうでしょうから。」

「おーけー………」

 

 マッドスパイクは右手をプルプルと震わせながら、上に突き上げてサムズアップをした。





「三人ともチェックイン終わったから荷物を預けて。もうすぐ、迎えの車が来るから。」


 フロックロックの指示を聞き、三人は必要な荷物をポッケなどに押し込み、残りの大きな荷物はホテルマンに預けた。




 ホテルの外で待っていると、暫くして一台の白いワゴン車がやって来た。


「時間丁度、流石ね。マッドちゃんは体調どう?」

「なんとか元気だぜ、のど飴ありがとよ。」

「役に立って何よりね。それじゃ三人とも今の内に変身しといて。顔バレしたいなら構わないけど。」

「流石にそれは………」

「困ります。」

「私はもうバレてっけど、二人に合わせるか。」


 三人は各々宝石を翳すと、宝石から光が溢れだす。

「瞬く流星!燃ゆる魂!この手で掴む!グロウスター!」

「全て量り、見通す瞳。この手で判決、クライムバランス。」

「吹かすエンジン!滾る闘魂!この手でぶっぱなす!マッドスパイクッ!」


 

「間近で見ると感動ものねー。」


 フロックロックが車の助手席に座り、ドアを開けた状態で拍手をした。


「いや、フロックさんが言うんですか?それ。」

「フロックロックさんは変身なさらないので?」

「私もう引退してるからねぇ。必要ないわー。」

「サッサと行こうぜ、運転手を待たしてるのも悪いしな。」


 マッドスパイクの言葉にハッとしたようにグロウスターとクライムバランスが車に乗り込んだ。


「まさかスパイクに言われるなんて…………」

「不覚…………」

「それは酷くねぇか?」


 後ろで会話をする三人を微笑ましく思いながら、フロックロックは運転手に会釈をした。

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