第5話 ラックハット 2

 ハァハァ……皆さんどうも初めましてこんにちは


 ハァハァ……私、とある仕事で張り込みしてたんですが


 ハァハァ……ターゲットはいなくなるし危険人物に絡まれるし


 ハァハァ……運が無さすぎますよねぇ!?


 ハァハァ……あ、名乗り遅れました私は───


「ヒョエェェェェエ!?」

 ふと横を振り向くと、危険人物がこんにちはァ!?

「ギャハハッ!良い顔!足にロケット生やせばお前よりは早く動けるぜ?」

「く、来るなですぅ!トリックショット!」

 右手の中指の上に人差し指を乗せて、円を描く。

 その軌跡をなぞるように光が瞬き、上空に上って滑空するように対象を追尾するという、私の十八番を食らってもらいます!


「ギャハッ!」

 全く通用しないどころか、剣に変化した右手で全て斬り伏せられてしまう。

「ヒィィィィン!勝てませんんんんん!!!!本部応答お願いしますぅぅぅぅー!!!!!」

『ザ…ザ……安定しました、どうしました?』

「説明は後ですぅ!マナを放出しますので、その場に強い方をお願いします!バーサークデーモンが乱入しましたあ!」

『な!?了解です!暫く持ちこたえてください!』

「言われなくともですぅ!こんな端金の依頼で死ねるかっつう話ですぅ!」




 私はおちょくりながら追いかけてくるバーサークデーモンと熾烈なデッドレース(?)を繰り広げていると、遠くから急速接近するマナを二つ感知した。


「へ、へへ、笑ってられるのも、ハァハァ今のハァハァ内ですぅ………ハァハァ………強い魔法少女が二人!ハァハァ来ますからぁ!ハァハァ……あ、ちょっと、休憩…………」

 私がへたり込むようにその場に倒れると、バーサークデーモンはニヤニヤと嬉しそうに笑いながら私を見詰めていた。

「ギャハ?見てて飽きないから見逃してやろうと思ったけど、更に二つも玩具を用意してくれるなんて良い奴だなァ?

 ケヒヒ、あくせく働くのがいやになったら一緒に暴れてやるよ?ギャハハハハハハハッ!」

「ざ、残念ながらぁ……それはむりぃ………生活がぁかかってますからぁ…………」

「ギャハッ!職業魔法少女ってのは世知辛いねぇ!」

「そういう……仕事ですからぁ……………」


 ふぅ、ふぅ、大分息も落ち着いてきた。バーサークデーモンが救援と相対した時、隙を見て背後を突けば、手傷ぐらいは負わせられるはず!



「到着しました!グロウスター、参ります!」

「クライムバランス、識別を開始します。」


 肉弾戦を得意とする、フルーツシャワーの唯一の弟子であるグロウスターに、相手の行動を妨害することに長けたクライムバランス。

 強い魔法少女とは言ったけど、まさか次期No.1とNo.2が来るなんて……………



 私達魔法少女は、ランキングがあるけれど、年代毎に別れていて、一番年代が古い魔法少女の順位しか公表されない。

 その順位も、一般の人の印象調査とか、討伐数によるものだから、完全に強さのランキングじゃないんだよねぇ。

 あの二人は次の年代のってこと。だから次期。

 現在のNo.1はこの前敗退したフルーツシャワー、No.2は身体の調子を理由に引退、No.3は健在だけど、フルーツシャワーが死んだ時点で、次代に譲ると宣言した。

 だから、正式な手順がなされるまでは次期なのだ。世間では既に、彼女たちをそういう扱いにしているけど。


 私は、救援の二人の一つ上。つまり、フルーツシャワーがいたランキングの魔法少女。

 順位は三十三位、最下位であり、フルーツシャワーがいなくなった今、彼女と同い年だった私が魔法少女最年長………威厳はこれっぽっちもないけど。

 元々、派手に戦ったり前線で活躍出来るような授能じゃないから仕方ない。こういう張り込みとかの敵の動向調査とかの裏方仕事ばっかりで、世間では殆ど幽霊少女って呼ばれてるけど、こっちだってそこそこのプライドはある。

 二人のことは命にかけても生還させなきゃ!



 私が決意を固めながら身体をゆっくりと解していると、既に戦いは始まっていた。


「グローリーパンチ!」

「業の測定終了を確認、クライム!」


 グロウスターのパンチに合わせて、クライムバランスの拘束がバーサークデーモンを絡め捕る。


「ギャハ!ざぁんねぇーん!」

 驚べきことに、バーサークデーモンはグロウスターのパンチに合わせてお腹をトラバサミのようなものに変化させた。

「っ!」

「およよ?寸止めェ?最近の魔法少女はお優しいのねぇ?」

「バランス!」

「承認、少々お待ちを。正確にはカップ麺一つ分。」

「三分よね!?五分だったら承知しないわよ!」


 やけに気の抜けるやり取りのあと、グロウスターはバーサークデーモンとの激しい攻防を始めた。

 流石次期No.1………相手が本気でないとはいえ、あのバーサークデーモンと互角に戦えている。今までの公式記録で、万全の状態の魔法少女がバーサークデーモンと一分以上倒れずに戦った者はいないと魔法少女内で公言されている。

 もちろん、公表したら混乱を招くため、世間には伝わっていない。









「クソッ!ふざけた態度の癖に油断も隙もないわね!」

「ギャハー?遊びにムキになるとかガキすぎーw」

 

「こんのっ!バランスッ!もう六分よ!」

「解析完了、離脱を推奨。」


 クライムバランスの声にすかさず戦線離脱したグロウスターを横目に、バーサークデーモンは笑いながら今か今かとクライムバランスのしようとしていることにワクワクしている様で、とても不気味に映った。


「絶え果てなさい、聖神罰!」


 クライムバランスの掲げた手から放たれる白光に、私の視界は完全に途絶えた。

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