第3話 フルーツシャワー 2
「ギャハッ!良い暇潰しになると思って来てみりゃ、もう討伐済みかよ!」
悦の水色の髪はそのまま一本の三つ編みとなり、薄汚れ、裾がボロボロの黒いロングコートで全身を覆った状態で、相も変わらずギザ歯を剥き出しにして笑っていた。
「あら、食後の運動はお預けね。」
ストレートの黒髪をなびかせた椛は、タイトな白の長袖シャツに、ラベンダー色のチュールスカートを揺らしながら悠然と悦の隣に立つ。
「あなた達は…………?」
キュアザワンダーが呟いた時、宝石の中からキュアが声を発した。
『ダメ~、その二人は指定犯罪者のバーサークデーモンとプラントクイーンなの~。
今すぐ逃げるのぉ~。』
そう言って精霊のキュアがゲート作成中、キュアザワンダーはフルーツシャワーを探した。
「フルーツシャワーさんは………!」
「オォ!茨よぉ、アイツ新人か!?初々しいネェ!馬子にも衣装ってナ!」
悦が目をギラギラさせて、キュアザワンダーを指差す。
「フフフ、誰か探してるみたいよ?」
「オオ!お姉さんちょっくら助けちまうかぁ?」
助けると言いながら拳を鳴らして一歩前に出た。
その時、足下でビチャりと言う音がした。
「問題ないわ、件の尋ね人は狂の足下よ?」
椛のその言葉に悦とキュアザワンダーが目を向ける。
そこには血の池が広がっており、フルーツシャワーと確認できる物は肉片すら無かった。
「うげ!?気付かなかった最悪ー!」
悦は心底気持ち悪そうに足を持ち上げ、プラプラと血を払っている。
「あれが……フルーツシャワーさん…………?」
一方のキュアザワンダーは茫然自失。足に力が入らなくなったのか、尻餅を着いてただただその血溜まりを見詰めていた。
「だからいつも現場には歩いていこうと言ってるじゃない。こういう悲劇的で予期せぬことも起きるんだから。」
「うっ、でもよぉ!こう、勢いよくサッ!と来るのカッコいいだろ!
クソォ!そのフルーツなんたらの最期を拝みたかったぜぇ!きっと人生一間抜けな顔だったろうぜ!
ギャハハハハハハハハハッ!」
「間抜……け…………?」
キュアザワンダーの脳裏に浮かぶのは自身を突き飛ばした瞬間のフルーツシャワーの顔。
それは覚悟を決めた頼れる先輩の最後の勇姿、キュアザワンダーはそう感じた。
だからこそ、目の前の水色の少女への苛立ちが異様に跳ね上がった。
「そんなことないです!フルーツシャワーさんは私を庇ってくれたんです!あなた達にフルーツシャワーさんの何が………!」
『行くのよ!』
精霊キュアの聞いたこともないような怒声に酷く驚きながら、足下に出現した転移ポータルにキュアザワンダーは吸い込まれていった。
「あら、逃げてしまいましたね。」
「ギャハハッ!茨が怖かったンだろ!それよりフルーツシャワーって結構有名だろ?ラッキーだったな?」
さっきの言葉は挑発だったのか、フルーツシャワーの名前をちゃんと口にした悦はしゃがみこんで血をつつきながら笑った。
「えぇ、私の植物の養分として申し分ないマナです。血だけでこれなら、肉片も取り込みたかったです、ね?」
「悪かったってw足に来る衝撃は変身しても痛ぇから足にアイアンメイデン生やしてたんだわw」
「まぁ、良いでしょう。予想だにしない収穫がありましたから。私の授能も更なる高みに登ったことでしょう。」
血の池に無数のツルが群がり、維管束が鮮血に彩られていく。
「茨って私のこと狂ってる言うけどさァー茨も大概だよ?それってカニバリズムっしょ?」
「あらあら、私これでも権力はある方なのよ?庶民と一緒にしないでくれるかしら?」
悦と同様にしゃがみこんで血の池に群がるツルを恍惚の表情で眺めながら、目を細めて鼻をならした。
「うわぁー!選民思考のカスだ!これなら魔法少女として威張ってた方が1万倍可愛いわ!
ギャハハハハハハハッ!」
「フフフ、さ、帰りましょう。」
笑い転げる悦を一瞥して立ち上がった椛は優雅に歩き始めた。
「うわーん……私だけ収穫なしー…………」
肩をがっくりと落としながら拗ねるように口を尖らせた悦も歩き始めた。
「帰ったらスイートポテトを食べましょう。少し御高い物でしてよ?」
「っしゃ!やりぃ!」
「単純って生きてて楽よね。」
「ギャハッ!単細胞バンザーイッ!」
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