E08-04 作戦会議②
「こんな究極兵器を連れて歩いたら、それこそ戦を仕掛けに来たと思われてしまいます!」
「それに、人間そっくりに見えますけど、やっぱり髪の色や瞳の虹彩は常人とは違いますって!」
ロウスとゼノが口々に言った。
「でも、これがあるよ」
エルは、フィリオンが持っていた小箱を開けた。
中には、魔術的に加工された薄膜が収められている。
「フィリオンが作ってくれたの。霊子干渉膜だよ。虹彩に貼れば、普通の人間の目みたいになる。髪も、色素錯視の転写術式である程度ごまかせるんだって」
「こんなものが……!ですが、見た目はともかく、この子たちのマナの圧は異常です。気配だけで、相手に勘付かれますよ」
「それも大丈夫。アンもフィリオンも、マナの抑制制御ができるように調整済みだから。今の状態は、なんていうか、挨拶用?第一印象が大事ですってフィリオンが言うから」
「それは意味が違います……。初対面で威圧してどうするんですか……」
ロウスが額を押さえると、隣でゼノがよろよろと立ち上がった。
「……ひとつ、いいっすか……? その……夜会ってことは、着替えが必要ですよね? ドレスとか、髪とか。誰がそれ、手伝うんすか?」
アンが勢いよく手を上げた。
「それならぼくたちがやりまーす!」
「機能的には問題ありません。我々がすべて対応可能です。髪結い、お召し替え、お化粧、なんならその前の沐浴補助も――」
「却下だ」
レイヴが即答した。
「
「猫なら、わたしは別にいいけど……?」
「だめだ」
「ちょっと!わたしの意思は尊重されないの?」
「される。されるけどだめだ」
それって、されていない。
と、その場にいる面々は思ったが、誰も何も口にしなかった。
やや拗ね気味のエルをよそに、ロウスが咳払いする。
「……女性の騎士で、信頼できる者をつけましょう。身の回りの世話もできて、いざとなれば護衛にもなるような」
ゼノも頷いた。
「魔術師団にも、貴族出身で礼儀作法もわかる者が何人かいるっす。誰か一人でも連れて行ってください。本当は俺もついていきたいですけど……」
「師団長さんや、騎士団長さんは有名だもん。向こうに顔が知られてるから、連れて行ったら警戒されちゃうよ。……でも、ありがとう。あと、ほかにも話しておきたいことがあるの」
エルが懐から小型の結晶板を取り出した。
下の城に設置されている観測装置と接続している媒体だ。
「これは今朝の観測記録なんだけど……フィリオン、説明してくれる?」
「モルテヴィア中枢部において、霊脈が数日以内に強制収束の兆候を示しています。
通常の自然収束とは異なり、明確な人為的干渉が検知されました」
「つまり、地下でなんかヤバいのやってるってこと〜」
アンが口を挟み、ゼノの顔が再び引きつる。
「……ここここの装置は……!ええ、こんな反応……これ、マナの観測装置……だけじゃないっすよね……!??」
「ゼノ、後にしてくれ……話が一向に進まなくなる……」
レイヴが頭を押さえていると、カシアンが、いつになく真剣な表情で言った。
「レイヴどの……。その、まだご存知ではないかもしれませんが……モルテヴィアの目的が殿下の御身そのものの可能性があります。その場合、もっとも警戒しなければならないのは、ノーラへの帰還を阻まれることなのではないかと」
「……そうか」
カシアンも、エルの秘密を知っているのだろう。
押し黙るカシアンを前にレイヴはしばし黙考すると、やがて瞳の奥に鋭い光を宿らせた。
「そうとなると、そうだな……。まあ、手がないこともない。――サイラス村って、知ってるか?」
隣にいたエルの瞳がわずかに揺れる。
サイラス――。
遠く懐かしい響き。
心の奥に沈んでいた記憶が微かに軋む。
「……サイラス……」
そう呟いたきり、エルはそれ以上は何も言わなかった。
※
※
※
※
作戦会議はその晩遅くまで続き、エルたちがモルテヴィアに出発したのは、それから十日後のことだった。
ノーラの都から東へ馬で約一日――そこには、
周囲には宿舎や関所を兼ねた行政棟、早馬を飛ばすための厩舎や連絡所などが整備され、すでにひとつの小都市としての機能を備えている。
幾重にも張り巡らされた検問を抜けた先、中心部には十数基の
霧のような魔素が淡く立ちのぼり、幻想的な光景を織りなしていた。
だが、その中にモルテヴィア王国へと直接繋がる
モルテヴィアは軍事的・魔術的機密の保持を理由に、外部との直接接続を厳しく制限していた。
そのため、エルたちはまず自由都市群の接続拠点を経由し、さらに東方小国エラヴィアを抜けて、ようやくモルテヴィア西境へと至るという遠回りの経路で進まなくてはならなかった。
モルテヴィアはノーラのはるか東。
陸路であれば、ノーラの都からモルテヴィアの王都まで、徒歩で五十日、馬車でも三十日を要する距離だ。
だが、
中継地には軍の詰所や監視塔も点在し、各国からの旅人や物資が交錯していたが、大きな妨げもなく通過できた。
旅路の中、何度か視線を感じる場面こそあったが、それが敵意によるものかは判然としなかった。
かくして、エルたち一行は――ついに、モルテヴィアの地へと足を踏み入れた。
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