第17話 滅びの選択
喫茶店を出て、再度街並みを見渡す。
変わらず、賑やかな獣人達の声が聞こえていた。
そして、歩き出す。
一角に、獣人達が集まっているのが見えた。
その視線の先では、演説をしている獣人がいた。
足を止め、その演説に耳を傾ける。
「我々は人の良きパートナーとして在る様に、と、造られて、そして今、その創造主を滅びに向かわせている。これは、我等の背負う罪なのだ。では、我々はその罪を背負い、どう生きていくべきなのか。我々は、人の意志を、その言葉を、繋いでいく事に、その意味を見出すべきなのだ。」
歓声が上がる。
あなたにも救いを、と、一枚の紙が差し出される。
継承会、と、書かれていた。
「いや、俺は良いよ。」
受け取りを拒否して歩き出す。
人は、心の拠り所を求める。
生きる為に、意味を欲する。
そしてそれは、人だけの特権では無いらしい。
我等獣人も、意味を失いつつある今、やる事は同じなのだな、と、そう思った。
背後では熱心に勧誘が行われていた。
人は、信心の果てに救済を置いていたはずだ。
あれの救済は何なのだろうな、と、ふと思い、足が止まる。
直ぐに頭を軽く振って足を動かす。
考えるだけ無駄だ。
そう思った。
老人ホームの前で足を止める。
この世界で最も人の割合の大きい場所だろう。
車椅子を押す獣人と、笑顔で話をしている老いた人。
人が最期を過ごす施設。
人の為に在る事を使命として造られた我々獣人にとって、人の世話をし、その最期を看取る。
最高の生き甲斐を感じられる場所でもある。
施設の外から、暖かい陽射しを受けながら、楽しそうに話をする老人と獣人のグループを見る。
しばらくその光景を見ていた。
そして、また歩き出す。
学校では、校庭で子供達がサッカーをしていた。
二試合が同時に行われていた。
その中に、人の子供は一人。
獣人の子の身体能力に、人の子はついていけずにいた。
一人の獣人の子がボールをキープしたまま攻め込む。
応援している子供達の声が大きくなる。
必死に走って来た人の子に、完璧と言えるタイミングでパスを送る。
一際応援の声が大きくなる。
しかし、人の子は、パスを受けられず、空振ってしまう。
歓声が静まる。
溢したボールを相手チームの獣人が受け、反対側に走る。
パスを出した獣人の子が、人の子を笑顔で励まし、ボールへと向かって走る。
人の子も、照れ笑いを見せながら励ましを受け、ボールへ向かって走る。
走るその顔は俯いていた。
「……人の為に在る、とは、どう言う事だろうな。」
ふと、言葉が出ていた。
授業風景をしばらく眺め、また歩き出す。
これが、人の選択した未来。
人は滅びつつある。
心は重ねられても、種は交わらない。
書庫へと戻る。
アーカイブに問い掛ける。
「……人の現状に至った過程を教えてくれ。」
『過去に尋ねられた時から、内容に更新はありませんが、宜しいですか?』
「ああ、構わない。」
クズノハがそう答える。
声に応じてアーカイブが語り始める。
「タキムラ博士が公開した異種遺伝子融合技術に対抗する形で、ミゾグチ博士達を始めとする遺伝子操作保守派が、人との遺伝的交雑が起こらない様、法制度の基礎を確立。世界的に支持され、採用される事になります。タキムラ博士は種としての人に拘る必要は無い、と、革新派として活動しますが、保守派が優勢となり、操作された遺伝子は、人と交わらない事が義務付けられます。その結果、心の繋がりを獣人が補う様になり、少子化が加速。子供を産み、育てる、と言う事が経済的余裕の象徴や嗜好品として扱われる様になり、現在の状況へと至ります。』
静かにその声を聞く。
クズノハは、言葉を聞き終えた後もしばらく動かずにいた。
「……これが、人の選択の結果なれば、この時間を保つことが、俺の役割なんだろうな。」
呟き、立ち上がる。
右手で左手首を撫でると、時空の穴が出現する。
「……旦那と、シュウジ達を組ませれば……」
言葉を最後まで続ける事なくかぶりを振る。
その顔には迷いが見えた。
そして、静かに歩き出す。
帽子の位置を直しながら、時空の穴へと入って行く。
主人の去った書庫に、清掃ドローンのモーター音だけが響いていた。
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