残りの命と君の嘘。

@fs1225

プロローグ 宣告

 「...もって、あと100日前後かと」


 それは紛れもなく、死への宣告だった。


 その日、俺はいつも通り学校に登校中だった。

 少し汗ばむほどの陽気の6月初旬。

 突然、俺の視界がシャットアウトされて──

 それで、気づいたら知らない天井...。

 色々と検査をされたらしいが、まったく記憶にない。

 今はベッドの上で、目の前では知らないおじさんが、申し訳なさそうに頭を垂れている。


 「そう...ですか」


 俺は、それ以上何も言わなかった。

 いきなり寿命とか言われても、実感が湧かない。


 「今後の方針ですが、入院して薬物投与による治療を行うか、ご自宅で療養するか、これは望月様自身で決めて頂けます」

「...はあ」


 要するに、延命するか大人しく死ぬかってことか。

 

 「自宅で、お願いします」

 「...今すぐ決めなくても、大丈夫ですよ?」


 医者が食い下がる。


 「いえ...自宅で。もう、決めました」

 「...わかりました」


 医者はまだ何かを言いたそうに、部屋を後にした。


 「あと...100日ちょっとか」


 俺は、あと100日ちょっとで死ぬらしい。

 怖いとかよりも、驚きの方が強い。

 今は、どこも痛くない。苦しくもない。

 こんな身体で、本当に死ぬんだろうか。

...

...

 まあ、いいか。


 これといって、やり残したことはない。

 何かやりたいこともあるわけじゃない。

 別に死にたいわけじゃないけど、それが俺の運命だとして、受け入れることはできる。

 そんな思考を遮る様に、部屋のスライドドアが開かれた。



 「智也...」



 か細い、少し震えた声と共に、誰かが部屋に入ってきた。

 母さんだ。



 「...ごめん、母さん」



 たぶん、もう余命の話はされたんだろう。

 母さんの顔は、困惑と悲哀の表情でぐしゃぐしゃだ。

 そんな顔を見て、俺は第一声に謝罪が出た。


 母さんは、それ以上何も言わずに俺に近づく。

 

 「...母さん?」


 母さんは、黙って俺を抱きしめた。

 そして、震えた涙声で、俺に言葉を紡ぐ。


 「...ごめん...お母さん、智也に...っ、何も...できなくて...」

 

 母さんは何度も、ごめん、ごめんと謝罪をする。

 ここまで取り乱している母さんは、生まれて初めてだ。

 母さんは、全く悪くないのに。


 ふと、ドアの方を見てみる。

 中年の男性の姿がある。


 「...父さん」


 父さんは元々寡黙で、あまり喋らない。

 でもーー


 「...」


 目元には、涙がにじんでいた。

 それを見て、思わず俺も泣きそうなる。



 母さんの体温を肌で感じ、父の涙を生まれて初めて見たその日───


 俺の人生の終わりが、告げられた。


そして、まだ知らなかった。

この残り100日と少しの人生が、

彼女のお陰で、かけがえの無いものになることを。

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