何年か後
両親ともども1年前に他界した。彼らが普通に歩いていると背後から通り魔がお腹を切り裂き、胸を突き刺し殺したらしい。さらにそいつは精神に異常がみられるという嘘で減刑になった。つまり、死刑ではなくなった。そいつが死刑になると心が晴れるかと言われると全くだが、私は両親に孝行ができなかったのを悔やんだ。
それでも、私は結婚しているし、小さな一人の息子もいてなんとかこの世界にしがみつくことができた。そして、一年間で鬱症状が緩和された。朝日を浴びて快適に起き、朝食の準備をする。何気ない日常が私に幸せを運び、生きないといけない理由が私に、毎日の生を与える。
今日私は彼に息子と公園に遊んできてくれるかとお願いをすると、彼は快く快諾してくれた。
何時間経っても彼らは帰ってこない。ふと嫌な思いが私の脳裏をかすめる。すると、ドアを叩く音が聞こえる。私の不安は杞憂であると、もう私には幸福しかないと自分に言い聞かせ、ドアを開けた。
そこには、警察が立っていた。私はその場で泣き崩れた。今日はもう彼らに会うことができないと伝えられた。そしてこの日の夜、睡魔が襲ってきた。
何もかもがしんどかった。あの現実に恨みを持ちながら、私は現実の存在を薄めていった。
黒い女性は私と同じ背丈であったが、彼女の存在は確実になっているように感じる。彼女の手は鏡を覆えるほどとなって、この世界の全てを感じることができるように思える。
鏡の中には幸せな家庭が映っていた。それは最初のこの夢と全く同じであったが、私は笑うことができなかった。幸せが一生続くと考えていた私を軽蔑した。息もしないで私は存在を可能な限り消そうと努めたが私自身であるため、ただただ虚しさだけが残った。
次は鏡は淀んでゆき、ピアノが現れる。「あの頃と何も変わっていない」とそう思うと苦しみから少しは逃れられると思ったが余計な苦痛を感じられた。
前のように鏡の中を注視していると、彼女の手に力が入っていることが感じられた。そう思っていると、次の瞬間、鏡に一つの亀裂が入った。それが一つはいると、もうその鏡は抵抗を失い、一瞬のうちに砕け散った。その時私の存在の意味がわからなくなった。彼女は私自身であったのだ。つまり、彼女の顔は私であった。
すると固定されていた視点が、私の瞬きと共に、彼女の視点となった。すなわち、私は感じるだけの存在になってしまった。彼女はピアノに向かう。雨で濡れていて、もう壊れてもおかしくはないような曲線のあるピアノが、奏でられた。それも、私の家族を殺した人間への恨み、この世界の理不尽さの罪、そして、私の生まれたことの後悔を持ちながら。わたしが起きると首を吊っていた。
鏡と少女 兀々 をかし @hoju95
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