第5話 私の中の早瀬。
月曜日、私の出勤は不思議な感覚がした。
まず朝起きてから仕事に行くのに体がそれほど重くなかった。
いや、重くなかったというより、今までが体を引きずるように家を出ることが多かった気がする。
ふつうに起きて、軽い朝ごはんを食べ、余裕を持って家を出る。
頭の中では次にどんなゲームをやろうかと考えて、早瀬の部屋にあったゲームたちを思い出す。あの中で私に次に合うのはどんなゲームだろうか。だが少なくとも早瀬が一人でやっていたような難しそうなゲームではないはずだ。
会社に着くと早瀬を見かけ、早瀬がにらめっこしているスマホの画面は少し覗いてみる。
すると早瀬が私に気づく。おはようございますの挨拶をされて、私もそれを返す。
何をやっているのかと訊けば、最近流行っているトレーディングカードゲームのゲームだという。仕事と仕事の間の暇つぶしにはちょうどいいのだと言う。なるほどそんなものなのか。私のスマホにも今度入れてみようか。
私のスマホは業務アプリにメモアプリ、その他生活に必要な最低限のアプリや初期搭載のアプリを除けば無味乾燥なホーム画面になっている。正味、見られて困るホーム画面が存在しない。
以前、会社の同僚の男のスマホをチラリと触る機会があったが、彼は一瞬無防備だったが、その後慌てて私からスマホを奪った。
後からなんとなくわかったことだが、年頃、と言っても20代の男の子のスマホ画面を軽々しく女性が覗くのはマナー違反らしい。
見られたくないアプリの一つや二つは入れているもんなのだとか。
そんなこんなを思い出しながら自分のデスクに着く。なんだか課長から怪訝な視線を感じた気がしたが、気のせいか。軽く挨拶したが、やはり怪訝な目を向けてくる。どうやら気のせいではないらしい。
昼になって、ランチ時、早瀬が私を誘ってきた。おそらくゲームの話だ。昨日、早瀬の部屋を出る前、次にやるゲームの話をそれとなくしていた。
またもや周囲から、といっても部屋にいたのは私と早瀬の他に、課長を含めた3人くらいだった。しかしなんだか怪訝な目線を向けられていた。
私は早瀬と共にランチをして、それからミーティングルームへ行った。
ミーティングルームで二、三の議題について話す。課長が私に話を振る時、なんだか妙にぎこちなかった。
まぁしかし私には心当たりがない。だけど気になる。
それと、今日は仕事終わり、早瀬とカフェに行く約束をした。新しいゲームについて相談をしてくれるらしい。
カフェで話している時、早瀬に今日のことを訊いてみた。なぜか視線が気になったこと。私なにか変だろうか。
「それは私もですね。今日はいつもより視線を感じました。私と石原さんが一緒にいるのがもしかしたら珍しいのかもしれません」
「珍しい……?」
「私はふだん一人で過ごすことが多いですし、石原さんもそういうタイプでは?まぁわたしは今日、久しぶりにランチを他の人と食べました。他の人といっても石原さんですが。会社のみなさんからすると、そういうのも含めて私が誰かと一緒にいるのは珍しかったかもしれません」
言われてみると、確かに私はふだん一人でランチをすることが多い。仕事のことを考えながら。休憩時間は次の仕事のことを考えている。そんな人間がいきなり誰かと仲良くして、一緒にランチまでしている。確かにはたから見たら奇異に映るか。
「それより次のゲームなんですが…」
と私が今日一日気にしていたことも、早瀬からすると特段どうといったこともないらしい。以前から人目を気にしている様子がないところは感じていたが、他人の目を本当に気にしないタチらしい。
嬉々として次のゲームの話をし始める早瀬。
その顔はこれまで私がいつも会社のオフィスで見てきたものとはまるで違うのだからなんだか面白い。
こんな顔もするのだ。
「どうかしましたか?」
まじまじと見つめてしまったのか、早瀬はあどけない表情をして私に訊いてくる。
週末という長かったようで少しの時間一緒にいただけで私は早瀬という人間の様々な顔を知った気がする。
私は後輩からゲームを学ぶ あま @ama_tentenbar
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