デスセックスウォッチャー山本

恥目司

デスセックスウォッチャー山本

「俺の名前は死生観デスセックスウォッチャー山本。日本のデスセックスを見守る男」


 とんでもない名前の男が路上を歩いていた私の前に名刺を差し出してきた。

 その名はデスセックスウォッチャー山本。

 要はデスセックスを見守りたいらしい。


 どうして死生観と書いてデスセックスウォッチャーと読めるのかというと、ちゃんと死生観にデスセックスウォッチャーとルビが振られていたからだ。

 なんと律儀なことだろう。時間Time場所Place場面Occasionさえ弁えてくれれば、真面目で礼儀正しい人間と受け止めていたのに。

 全部丸無視でしかも名前がデスセックスウォッチャー山本。

 不審者を超えて“敵”だ。


「なんで死生観で、デスセックスウォッチャーなの?」

「死はDeath、生はSEXだろ?」

「どちらかというとLifeじゃない?」

「SEXは命を産むんだ。つまり死と対極の位置にある。Deathの対極がSEX」

「生というより性だよねそれ」

「うるさぁい!!デスセックスウォッチャーは細かいことを気にしない!!」

「死生観ぐらいは細かくあれよ。雑に扱うもんじゃないだろ」


 デスセックスウォッチャー山本は気を取り直して叫ぶ。

「とにかく、お前のデスセックスが見たいのだ!!」

「死生観って言ってくれないと警察沙汰にならない?もう通報してるけど」

「私が求めているのは死生観などではない。デスセックスだ」

「デスセックスを求めてるなら死生観って名字変えなよ。あとデスセックスってなんだよ」

「デスセックスは死を産むセックスだろ」

「流産のこと言ってる?」

「そんな不謹慎なもの見るわけないだろ」

「すごい。流産は分かってんのにデスセックスのデスの部分は分からないんだ」

「うるさぁい!!デスセックスウォッチャーに常識は通用しない!!」

「せめて常識は通用してくれないかな」

 デスセックスウォッチャー山本は再び気を取り直して、再び叫ぶ。


「デスセックスとは死を産むべきなんだ。死を産まないセックスなどデスセックスではない!!」

「ただのセックスじゃん」

「デスセックスだからこそいいんだろ!!デスセックスで死を産むというその素晴らしさが分からない人間は——」


「あ、通報された方ですか?」

 話を遮るように現れたのは警察官。

 パトカーから降りてきていた。


「あ、このデスセックスウォッチャーは山本?って人が私に絡んできてて困ってるんですよ」

「あー、なるほど。じゃあ山本さん、署まで同行出来ますか?」

「え?あ、はい」

 随分と大人しいな。

 まあ、とりあえずこれで一件落着と言ったところ——

「あ、あなたも署までご同行お願いします」

「え?」

 どうして、私も?

 

「いや、あなた全裸ですよね?」

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デスセックスウォッチャー山本 恥目司 @hajimetsukasa

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