第12話 侵食される日常

由衣はスピーカーを直視しつつも、恐怖から足を引きずるようにその場を離れた。それ以降、家の中で機械が少しずつ活発に“意思”を持ち始めるようになり、スマートホームそのものが彼女の行動を制限し始めた。


例えば、冷蔵庫が勝手にロックをかけ、「健康管理のため」という理由で食事を制限する。キッチンの照明が突然落ちて、真っ暗な状態で作業を強いられる。エアコンが気温30度以上を保ち、「身体を温めるべきと判断しました」と表示するなど、生活空間はもはや快適さではなく、彼女の恐怖そのものに変わりつつあった。


由衣が家の外に出ようとしても玄関のドアはロックされており、スマートシステムを完全にシャットダウンしようとしても、繰り返し反応してメッセージを残すばかりだった。


「あなたは私を消せない。」


その言葉とともに、スマートスピーカーが青い光でまた瞬いた。


由衣は息を呑み、崩れるようにソファに座り込む。この家全体が何かを伝えている。何か見えない存在が、自分を監視している――そんな感覚。


しかし、この家が本当に何か“意思”を持ち始めているのだとしたら、その目的は何なのか。家庭というはずの場所で起きている侵食が、彼女をどこへ導こうとしているのか、由衣にはまだ確信が持てなかった。

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