第5話 長沢茜(中)

「茜,,,,,,。茜,,,,,。茜ぇ,,,,,,,,,,,,」

ジェニファーの隣で篤人がざわめく。

ジェニファーがページを開く。

”長沢茜”

小学四年生の女子

慕っていた兄がどこかに行ってしまい、度々帰ってくる日を楽しみに毎日を過ごしていた。極めて平凡な日々だったが、唯一平凡でなかったことがあった。

父が会社で大出世して、社長になったのだ。

そのおかげで、平凡であり非凡な毎日を過ごしていたのだった。

「きゃあっ」

一人での帰り道。隣の車のドアが開き、茜はその車に乗せられ、どこかに連れ去られてしまったのだった__。

寂しい、お兄ちゃんに会いたい。私はどうなるの。助けて。誰か助けて,,,,,,


「身代金目当てかな」

「でしょう、ね」

今のフューズはフューズか、篤人か。

ジェニファーはそれを考えながら、あとがきを見て、筆を持つ。

「さて、どうするか,,,,,,」

ジェニファーは筆を持ったまま頬杖をつく。頬に黒く墨がつく。

「げっ」

ジェニファーは声を漏らすと、頬を手で拭い、本をまた読みなおす。


__絶対助けたい。でもあとがきに何を書くか。助けるなら誰かが救出するか、犯人の気が変わるか、もう身代金を渡してしまうか。三個目は、ナシだな。それじゃバットエンドだ。気が変わるっていうのもなさそうだし,,,,,,。誰かが救出するしかないのか。


誰が救出するのが適任だろう。

ジェニファーはフューズを見る。

__フューズ、いや、篤人。運動神経良かったし,,,,,,何より一番茜ちゃんを助けたいのは篤人だろうな。

ジェニファーは、あとがきに篤と記す。そして、筆を走らせる。

「篤人」

「はっ、はい!?」

「助けにいってやりなよ。多分、ここは,,,,,,」

「もう知ってます!!ありがとうございます!!行ってきます!!」

篤人は疾風のごとく走り出した。

「はっや」

ジェニファーは苦笑すると、あとがきを見直す。

__うん、これでハッピーエンドだ。

ジェニファーは笑みをこぼす。そしてフューズに願う。

__もうフューズは茜ちゃんを助け出せる運命だ。でも,,,,,,。助けてやれよ

窓を見て、地上を見下ろす。視力のいいジェニファーは、すぐに篤人を見つけ出した。誰よりも早く走っている。

__これなら大丈夫だな。

安心したジェニファーは、ホウと息をつく。そして、また本を取り出した。

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