第3話

 自室に戻った私はベッドに突っ伏していた。涙が後から後からこぼれ落ちて、シーツをぐしゃぐしゃに濡らしている。 

「……ううう……」

 ベッドを思い切り殴りつける。ぼよぼよとした衝撃が顔にぶつかってくるが、お構いなしだ。足をバタつかせ、腕を振り回し、苦しみにのたうち回るように暴れた。

 聖跡を発現させた妹を見て、驚きつつも大喜びする両親。ここ数年我が家では、あそこまでにこやかで機嫌のよい二人は見られなかった。二年前、私の10才の誕生日以来の日々は、思い出したくもないほどだ。

 お父様は昼夜問わず私に聖属性魔法の練習、勉強を強いた。お母様は私を各地の聖人に縁のある地や高名な僧の居る協会へと連れて行った。その内聖属性魔法については知識だけなら誰にも負けない知識量になったが、呪文を詠唱しても何も起きない。毎日右手を凝視しても、何も変化は無かった。


 ーいつしかお父様たちは、毎日私を罵倒し、殴るようになった。

 

 でも今日は、一度頬を叩かれたきり、力任せに殴られたり、腹を蹴られることは一度もなかった。それどころか、リミスの誕生日を祝うまで、お父様たちと殆ど言葉を交わさなかった。部屋に戻ると言っても、魔力の鍛錬をしろとか、魔導書を買ったから読めとか、いつものような事を何も言われなかった。

叩かれたいわけじゃない、けれど、いつもあった習慣が突然無くなるのは不気味だ。素直に良いこととして捉えられない。


 そんな私の予感を聞きつけたかのように、突如、部屋のドアがバンと開いた。

「おい、マルガリータよ、おまえの部屋にある魔法学の文献や蔵書はどれだ?」

「お、お父様、えと、そちらの棚にあるものが全てで…」

「ふむ、数が多いな。よし、マルガリータ、おまえは今日から納屋で寝なさい。この部屋はリミスの勉強部屋にする。」

「え………。」

「グズグズするな、早く出て行きなさい。」

「あの、本以外のものは、どうすれば」

「ええい、役に立たないのに口ばかり……」

 お父様は私の手を掴むと、ベッドから勢いよく引っ張り、そのままの勢いで部屋の外に追い出した。壁に頭をぶつけ、視界が真っ白になる。ややあって意識が戻り、顔を上げる。そこで初めて、部屋の外にリミスが立っていたことに気が付いた。

「……!」

「マルゴー…」

 

 リミスは何か言いたげだったけれど、私はリミスを見なかったことにして、納屋へと歩き出した。打ち付けた頭がズキズキと痛むが、あまりグズグズしていられない。リミスと二人でいるところを両親に見られれば、きっとリミスに嫉妬して虐めたのではないかと疑われる。

ー実際、リミスと二人きりで話していたら、呪詛の言葉を吐かない自信が無いし、ね。

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