第2話
リミスの手に浮かぶ紋章は、どうも常に発光し続けるらしかった。今は火が灯っていて見えづらいが、きっと暗闇の中では淡くも美しく光るのだろう。
ーーその手は私のものだったはず。本当は私の右手が、そうなるはずだったのに…。憎たらしい。皮を剥いで中をえぐり出せば、光らなくならないかしら。
こんな物騒な考えが頭をよぎるくらい、本当に憎んでいるはずだった。しかし、聖跡の輝きを見ているうちに、段々と罪悪感が沸いてくる。まるで聖跡に、私の醜さを咎められているようだ。
それはそうだ。これは、私にとって喉から手が出るほど欲しかったモノで、手に入らなくて、喉を掻きむしって憎悪を叫びたくなる嫉妬の象徴。けれど、同時にそのシンボルは我らがリヴァイア王国民が信奉する「ルチア様」の紋章でもある。どんなに複雑な思いであれども、私にとっては信仰の源泉だ。神秘的な光で描かれたそれは、私にルチア様の御威光を理解させ、魅了するのだ。
「マルゴー?ねぇ、どうかなさったの?顔色が…。」
考え事をしていて、咄嗟に反応できなかった。瞬間、パチリと頬を叩かれた。
「おい!マルガリータ、リミスが呼んでいるのだぞ、さっさと答えないか。この愚図が。」
「…あなた、もしかしてこの娘はリミスに嫉妬をしているのではなくて?」
「ん?そうなのか、マルガリータよ。お前は全く!妹の晴れ舞台に嫉妬とは。無能な上に心まで汚らしいとはな」
「マルガリータ、貴方には本当に騙されたわ。こんな女に聖女なんてとても無理だっていうのに、時間もお金もかけて、社交界に名を売って…。」
「全く人騒がせな娘だ、お前さえいなければ、最初からリミスに選ばれた者としての教育を受けさせることが出来たというのにな。」
「あ、マルゴー…」
リミスが心配そうな顔で私を見ているのが声色で分かる。何とかして取り繕わなくてはならない。
「お父様、お母様、ごめんなさい。私のような出来損ないでなく、ミリスが聖女であったが、もう少し早く分かれば、と悔やんでおります。本当に、申し訳ありません。」
スカートの裾を持ち、頭を下げる。顔中に力を入れ、涙が零れないように、この思いが悟られないように。母たちはそんな私の様子が気に食わなかったか、フンと鼻を鳴らした。
「全く、思ってもない事をよく言うわ。本当はリミスに成り代わりたくて仕方ないクセにね。どんなに取り繕っても、卑しさが隠しきれていないのよ。」
母の言葉に頭を殴られたような衝撃を覚えた。確かに私はリミスに嫉妬している。しかし、ここまで言われなくてはならないことなのか。数年前まで、私が聖女となると信じ、溢れんばかりの期待をかけてきたのは誰か。母と父の目に自分が映って欲しいと思うことは悪なのか。
一わかりきっていることは、ここに私の席はないということだ。
「私のような無能は、ここにいてはお父様達の団欒の邪魔になると思いますの、本日はここでお暇させていただきます。リミス、お誕生日おめでとう。不甲斐ない姉の代わりに頑張ってきてね。」
私は震える唇を押さえつけながら何とか言葉を絞り出した。そのまま深くお辞儀をすると、顔をみられないように退出した。
泣き顔など見られたら、何を言われるか分からないから。
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