第14話

「そんなふうに見てくれてるなんて、全然思わなかったから」

 彼女はそう、言葉をつくろうように続けた。

 だが、私にはなにも後悔はなかった。彼女へ気持ちを伝え、それに彼女はちゃんと応えてくれた。その結果がダメだったとしても、私にはそれが嬉しかった。

「まあ、やっぱそうだよね」

 私は苦笑いした。

 告白した瞬間の彼女の反応をみて、なんとなく結末はわかっていた。

 夕日はやがて、日本海に少しずつ沈み始め、さっきまで大きいと思っていた太陽が、沈み始めるととても小さく見えた。その代わりに空はオレンジ色に染まり始め、辺りは夕暮れの景色に変わっていった。

 足元の砂浜は少しだけ暗い色になり、やがて夜が近づいていた。

 夜になれば、夜行バスに乗り、再び東京へ戻る。そうなったら振られた私は、もしかしたらもう彼女と会うことはないのかもしれない。

 夕日が沈む海を見ながら「暗くなるから、そろそろ行こう」、そう言って名残惜なごりおしそうに立ち上がった。

「うん」

 彼女もまた私にならい立ち上がると、ふたりで車へ引き返し始めた。

 今度は彼女は自身の運転席に座り、「駅まで送るよ」と言った。

「ありがとう」

 私はそれだけ返し、少し黙った。

 振られたすぐ後だ、車内は多少の気まずさを残していた。

 タイミングを間違えただろうか、せめて新潟駅に戻ってから告白するべきだったかと悔やんだ。

 思えば、彼女とは恋愛話をした記憶があまりなかった。

 一度だけ、あれはディズニーに行ったときだったろうか、大学在学中に彼氏ができたが長くは続かなかったという話を聞いたように思う。

 車内の空気を変えようと、私は別の話題を話し始めた。だが彼女も話し始める頃には、先ほどのことがまるで無かったかのように、私たちは会話をした。

 それから不思議なことに、私と彼女はむしろ今まで以上に打ち解けたように話が盛り上がり始めた。

 私はもう彼女へ気持ちを伝えてしまっていたし、隠すものなどなにもなかった。

 彼女もまた、自身に向けられた好意を、決して嫌なものだとは思っていなかったのだろう。

 逆に彼女は「いつから?」「あの時はどうだった?」と言ったような質問も興味津々きょうみしんしんに私にするようになった。

 そしてそんな会話の中で、私は彼女へ最後に一緒に花火がしたいと提案した。

 彼女はこれに「うん、いいね、やろう」と同意した。

 それからマリンピア日本海の近くまで戻ってくると、近くにあるコンビニエンスストアで花火とライターを購入した。

 そうして昼間にふたりで海水に足をつけた砂浜へと戻ってきた。

 そこでふたりで花火をした。

 辺りはすっかり暗くなり始め、火をつけた花火がぼうっと砂浜に浮かび上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る