第10話

 それからようやくといった感じでインターネットカフェに辿り着いた頃には、早朝とはいえ、真夏の朝日に照らされ歩き続けた私は、すでに汗だくになっていた。

 インターネットカフェに入るなり、シャワールームを借りて、シャワーを浴びた。

 シャワーで汗を流し、着ていた服も着替えた。

 それからインターネットカフェの個室で少しだけ仮眠をとった。さすがに夜行バスと歩いた疲れが押し寄せ、すんなりと眠りに落ちた。


 携帯電話が震える。セットしておいたアラームが作動していた。

 私はアラームを止め、目を覚ました。

 もうすぐ彼女が迎えにくる時間が迫っていた。

 彼女には今、インターネットカフェにいることを告げると、ここへ迎えに来てくれるということだった。

 彼女はこの地元で就職し、車を購入していた。

 駅前からインターネットカフェに向かうにも、この距離だ。この地域では車がないと生活は不便なのだろうなと思った。私の地元もそうだが、一家に一台どころか、成人した一人に一台、車が必要なのだ。

 私は支度をしながら彼女の到着を待った。

 その間、ずっと気持ちは落ち着かなかった。彼女と一緒に行ったディズニーランドの時でさえ、こんなに彼女を待ち遠しく感じることはなかった。

 確実に私の気持ちは、あの頃とは違っていた。もうあの頃のようにくすぶったかげりはなかった。

 彼女から「着いた」と連絡があり、私は荷物を手にインターネットカフェで会計を済ませ、後にした。

 果たして駐車場には、一台の車の前で彼女が待っていた。

 久しぶりに会う彼女は、なんだか初めて会うような、そんな新鮮さを感じた。

「久しぶり」

「久しぶり、元気?」

 私は彼女の挨拶に、そう返した。

「うん、元気。よく来てくれたね」

「遠かった」

 そう言って笑った。

 それから彼女の車に乗りこみ、私たちは出発した。

 まず向かったのはマリンピア日本海という、新潟市にある水族館だ。

 ここは有名な観光地らしく、新潟、観光と調べると、すぐに出てくるので、私はここに行こうと彼女へ提案していた。

 車で水族館へ向かう道で、あのインターネットカフェまで歩いたことを彼女に告げると、彼女はやはりびっくりした様子だった。

「歩いていく場所じゃないよ」と彼女は笑いながら言った。

 それはそうだろうなと、私も思った。

 しばらく道を進み、大きな川の上を超えた。その時見えた景色に感動を覚えた。

 新潟、改めて私はこれまで縁のなかった場所に来たのだなと、知らない景色、だが、壮観そうかんな日本海のその景色に、そう思った。

 そして隣の彼女をそっと盗み見た。

 車を運転する彼女の姿は、私にまた新たなときめきをくれていた。

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