第9話

 8月17日。

 新潟訪問の前日その夕方、私は荷物をまとめ、新宿のバスターミナルへと向かっていた。

 新潟には夜行バスで一晩かけて向かうことになった。

 夜行バスというのもまた、旅という感じがあっていいなと思った。

 だが、夜行バスに乗っている間、明日のこと、そして彼女のことを想い、まったく寝付くことができなかった。

 夜行バスが途中、休憩所に立ち寄った。

 私は外の空気を吸いにバスから降り、トイレへ行き、売店を見てまわった。

 その時、携帯電話が着信を告げた。

 そこにライブなどで一緒になる女友達の名前が表示されていた。その人には、この夏の始めにあった失恋なども話しており、また歳が同い年ということもあり、気軽に話せる仲だった。

 だが電話に出ると、今、とあるライブ会場にきており、ほかにもうひとり女の子と一緒だという。

 その女の子とは、私はここ最近のライブ会場の打ち上げで知り合った人だった。

 これもまた、ここでは多くは語らないことにするが、私の昔を知る人であれば、その人が誰を指すのかはお察しいただけるであろう。

 そんなこともあり、休憩時間の終わったバスは再び新潟に向かい、ひた走りはじめた。

 どれくらいカーテンの隙間から外の夜の景色を見ていただろう。知らぬ間に私は眠りに落ちていた。

 気がつけば、カーテンの向こうは空が白みはじめ、夜が明けかけていた。

 そして朝早く、バスは新潟駅のロータリーに到着した。

 早朝6時、まだどの店も開いておらず、バスから降り、荷物を手にロータリーに降り立ったはいいものの、私はさてこれからどうしたものかと思った。

 ひと晩中バスに揺られ、またゆっくり眠れなかった疲れもあり、私はゆっくりできそうな場所をと思い、インターネットカフェを探した。

 インターネットで検索すると、一番近くのインターネットカフェが表示された。どうやら駅前の大通りをひたすらまっすぐ行った先にあるらしかった。

 彼女との約束の時間にもまだまだ余裕がある。

 私はとりあえず一時的にでもくつろげる時間が欲しかったので、そのインターネットカフェへ向かうことにした。

 だが、それが大きな間違いだったと気付いたのは、歩き始めてから15分くらい経った頃だ。

 地図を再び確認する。私は目を疑った。インターネットカフェまでの距離は、まだあと半分もあるではないか。

 新潟の街をめていた。

 ここは私の地元と同じく、車社会くるましゃかいの街なのだ。道は広く、タクシーも走っていない。おそらく、このインターネットカフェも、よもや新潟駅から歩いていくなどという想定のもと建てられたのではないだろう。

 インターネットカフェは駅前にあるものと、首都圏と同じ感覚で探し、歩き始めた自分を呪った。

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