第5話

 ディズニーランドは思ったよりも空いていた。

 25日でクリスマスイベントも終わり、現在はシーズンイベントのない閑散かんさんの時期なのだろうなと思った。

 ワールドバザールを抜けると、シンデレラ城が見えた。

 天気はすこぶるよく、冬の乾いた空気が冷たい。

 私たちはまず、カリブの海賊かいぞくのアトラクションに乗り、それから次いでジャングルクルーズへ向かった。

 その後は早めの昼食を取り、午後からも次々とアトラクションをまわった。

 夕方に乗ったスプラッシュマウンテンでは、アトラクションの最後にあるウォーターフォールで写真を撮られる際、ジョジョの奇妙きみょう冒険ぼうけんをモチーフにポーズをとり、いわゆる変顔へんがおで臨んだ。そうしてできあがった写真で彼女の笑いをとった。


 アトラクションを回る間、彼女とはいろいろな話をした。

 思えばこうやって丸一日、休日を一緒に過ごすのは始めてだった。

 そんな彼女のおかげもあり、夜ご飯まで退屈たいくつをせずに過ごすことができ、夜ご飯が終わったあとはバズライトイヤーのアトラクションにも乗った。

 バズライトイヤーはいつも待ち時間が長く、これまでディズニーランドを訪れた際はすべて乗ることを諦めていたが、今回初めて乗ることができたのだった。

 彼女と過ごすディズニーの一日は楽しく、またたく間にすぎていった。

 気づけばもうすぐ閉園の時間が迫っていた。

 ディズニーランドを出る前にお土産を買うため、ワールドバザールの店に寄った、グッズやお菓子を買う客でごった返す店内をふたりで進み、いくつか土産を買った。

 舞浜駅から帰りの電車に乗った。これまたたくさんの人が乗り込み、混みあっていた。

 そうして、彼女が住む最寄り駅まで戻り、一緒に電車を降りた。

 私は彼女へ家まで送ると言った。だが、本当はもう少し一緒に居たいなと思ったので、「あの、おうちお邪魔してもいいかな、もう少し話したいし」、私がそういうと彼女は少し不安そうな顔をした。

「あの、ごめん、家はちょっと…」

「ああ、いいよ、こっちこそ、全然ぜんぜんっ、大丈夫!」

 咄嗟とっさに出た反応だった。

 当時の私に下心がまったく1ミリもなかったかといえば、それは嘘になるかもしれない。

 だが、私には付き合っていない女の子の友達に手を出せるほど、勇気も度胸も覚悟もない。

 このときは今日が楽しかったから、今日という日が終わってしまうことが、彼女との一日が終わってしまうことが、ただ寂しかったのだ。

 結局、彼女を家の近くまで送り、そこで別れた。

 もちろん無理強いするつもりもなかったし、彼女に嫌な思いをさせたくもなかったので、私は彼女の気持ちを尊重そんちょうした。

 彼女とはまたねと言って私は帰路きろについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る