第6話 神の加護と、偽りの神子

神聖都市ルミア。

白亜の建造物が立ち並び、道行く者たちは清楚な神衣に身を包み、どこか誇り高い空気を纏っていた。


(……この街、空気が違う)


目に見えない“加護”の膜が都市全体を覆っている。

誰かが常に祈り、誰かが常に「神の秩序」を守ろうとしている。

そんな圧のような雰囲気に、レイナは違和感を覚えていた。


「なるほど……。この都市全体が“神の魂”の影響下にあるな」


シエルの低い声が頭の奥に響く。

今は姿を隠しているが、レイナと魂で繋がっているため、意識だけは常に共にある。


「この街を支配する神の名は“ルゼア”。第五位神だが……魂の格は貴様に遠く及ばぬ」


「じゃあ……本当は、支配なんてできる立場じゃないの?」


「さよう。だが“信仰”という形式で、無理やり地位を保っているにすぎぬ。虚構の支配だ」


そんな会話を終えたそのときだった。


「そこのあなた!」


街角の広場で、白銀の法衣を纏った少女がレイナを指さした。


長い金髪に、青い宝石の瞳。完璧な“神の娘”のような見た目。

だが、その瞳に宿るのは尊大さと優越感。


「異端の気配がするわ……名を名乗りなさい。私はこのルミアの“神子”にして、第七神〈ルゼア〉の代行者、ルミナ・エルフィーネよ」


周囲の人々がひれ伏す。

神子はこの街の象徴。ルゼアの加護を直接受ける“選ばれし存在”だ。


だが——


「……神子、ね」


レイナの表情が曇る。


「神の名前を借りて偉そうに……自分の力で立ってもいないくせに」


「な、なにを……!? あなたは神に逆らうつもりなの!?」


「ええ、そうよ。最初からそのつもりだったし」


ざわめきが広がる。


神に対して、真っ向から“反逆”の意志を口にする者など、いない。

この都市では特に、それは“冒涜”と見なされる禁句だ。


「罰を受けなさい! 神罰【雷撃の矢】!」


ルミナが手をかざすと、空から雷の矢がレイナに降り注ぐ。


バチィッ!


だが、雷はレイナに触れることなく、空中で霧散した。


◆森羅拒絶:対象【雷撃の矢】を遮断

◆反撃値、蓄積中……


「そ……そんな……!?」


ルミナの顔が恐怖に染まる。

レイナのスキルは、神の加護そのものを拒絶している。


「あなたの“加護”じゃ、私には触れられないわ」


◆反撃ダメージ付与


ズガァンッ!


爆発音と共に、ルミナが吹き飛び、広場の柱に激突した。


神子は、民衆の前で、たった一撃で敗北した。


「まさか……神子が……!?」


「あの少女、何者……?」


人々の視線が恐怖と畏怖に変わる。


レイナは振り返らず、そのまま歩き去った。

心の奥では、確かな何かが目覚め始めていた。


(スキル《反逆》……さっきの戦闘で、何か……深くなった?)


神を否定し、偽りの神子を打ち砕いた。

この日、レイナの中に“もう一つの力”が灯ったのだった。


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