第5話 神の街ルミアへ

夜明けの空を、漆黒の翼が切り裂く。

レイナは神龍〈シエル=ヴォルグ〉の背に乗り、広大な森を眼下に見下ろしていた。


「……ねえ、シエル。近くに人が住んでる街ってある?」


「北東に〈ルミア〉という都市がある。神の祝福を受けた宗教都市だ」


「神の……?」


言葉の端に、わずかな嫌悪が混じった。

神に拒まれ、追放された自分が、よりにもよって神の街に向かうことになるとは。


だが、情報も金もない今のレイナにとって、人の街は避けて通れない。


「ふん、良いではないか。貴様の《反逆》は、すでに神を超えておる。その神の徒どもがどう反応するか……面白かろう」


シエルの声には、明らかな愉悦が混じっていた。

最強の神龍ですら、レイナの中に“神を屠る存在”の萌芽を感じ取っている。


それから間もなく、神殿のような白い建物が地平線の向こうに見えてきた。


「……あれがルミア?」


「うむ。神聖同盟の本拠。神を信仰する者たちが住まう都市だ。だが、我が力を感じれば、迎撃するか、逃げ惑うか……」


「じゃあ、降りて歩いていく。目立つのは避けたいし」


神龍の背から飛び降り、ゆっくりと地面に着地するレイナ。

スカートの裾を軽く払い、少し緊張した面持ちで前を向いた。


「人の街って、ちゃんと歩くの久しぶりかも……」


かつての世界では、当たり前だったこと。

駅までの道。通学路。コンビニの明かり。


今やそれすら、遠い記憶の中だ。


——でも、私は変わった。

もう、追放されるだけの“優等生”じゃない。


「絶対に……戻ってやる。上に行く」


神を従えた少女は、静かに拳を握りしめた。



数時間後──神聖都市ルミア・南門前

「……止まれ。ここは神聖同盟の聖域。出自を名乗れ」


門番の騎士がレイナに声をかけた。

その視線には、どこか不信と警戒が混じっている。


(あぁ、やっぱりここでも“異分子”なんだ……)


だが、もう下を向くことはしない。


「私の名前はレイナ・ミゼリス。……旅の者よ」


「……ふむ。お前……背後に、何か恐ろしい気配が……」


騎士の顔色が一瞬にして蒼白になる。

その背後には、姿を消してついてきた神龍〈シエル〉の“魂圧”が漏れ出していたのだ。


レイナは、静かに微笑む。


「安心して。私に従ってる存在よ。手は出さない」


騎士はしばらく絶句したのち、震える声で言った。


「……入城を……許可する」


神の街は、少女の影にひそむ“神をも凌ぐ存在”に、まだ気づいていない。

この出会いが、やがて世界の歪みに火を灯すことになると——。

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