第4話 夢への渇望

幸せな夢はいつもいいところで終わる。

目が覚めた瞬間、自分がひとりきりの部屋にいることが、どうしようもなく辛い。

あの人の腕の中にいたはずなのに、目の前には白い天井と冷たい空気しかない。



朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。

いつもなら眩しいはずの光が、今日は妙に灰色に見えた。

夢で触れそうだった唇の感触が、まだ唇の端に残っている気がして、私は指先でそっと触れた。


「…なんで、目が覚めちゃうんだろ。」


ベッドの上で呟く声は、情けないほどかすれていた。

現実なんて、いらないのに。



昼間はいつも通りバイトに行った。

人の声とタイピング音の鳴るオフィスで、私はひたすら仕事に没頭した。

でも、頭の奥ではずっと考えていた。


最近見るあの夢のことを






帰り道、街灯の光がにじんで見えた。

風に吹かれるたび寒さで頬が痛む。

スマホを取り出すと彼氏からのLINEがまた届いていた。


「今日、時間ある?ご飯でも行かない?」


『ごめん今日は疲れちゃったから』

と返信してスマホの画面を消す。

現実の彼と向き合うことが、どんどんしんどくなっていく。

心の奥に、誰か別の人の影があるせいだ。



家に着くと速攻で着替えてベッドに潜り込んだ。

もう現実の時間を過ごしたくなかった。

あの夢の中に戻りたい。

会いたい。


深く息を吐いて眠りについた。



気がつくとまたあの夢の中に入り込んでいる。

いつもの部屋、いつもの私、そしてすぐ近くにいる彼。

いつものダル着姿で、私の方を見て笑っている。


「おかえり」


たったそれだけで涙が溢れそうになる。

私は何も言えず、唇を噛んだ。

彼はゆっくりと近づいてきた。

そして、頬にそっと手を添えた。


「そんな顔するなよ」


指先が私の頬をなぞる。

それだけで体が熱くなるのが分かる。

現実では、こんな感覚になんてならないのに。


「…ずっとここにいたい。」


気づいたら言葉が漏れていた。

彼が優しく笑う。


「俺はいてくれたら嬉しいけどね」



その言葉を聞いた瞬間顔に熱が集まって行くのがわかった。



放心状態の私に彼はそっと口づけた。

軽いキスがどんどん長くなって彼の舌が遠慮がちに触れてきたとき、全身がびりっと痺れた。

夢の中のはずなのに体中が熱くて、息が詰まりそうになる。


「…やだ」


思わず体を引こうとすると、彼が腕を回して逃がさなかった。

背中をぎゅっと抱き寄せられる。

その力が強くて、心臓が壊れそうだった。


「逃げないで」


低く、掠れた声。

私の耳元で囁く息が熱い。

首筋に彼の唇が触れた瞬間、小さく喘ぎ声が漏れた。


「だって…夢なんでしょ…?」


彼は、そっと私の頬を撫でた。

そして唇を離して、微笑む。


「夢でもいいだろ?俺は香がそばにいてくれたらそれでいいよ」


その言葉に、胸の奥がとくんと高なった。


彼の手が、私の服の裾にかかる。

ほんの少しめくり上げられた布の下から、指先が肌に触れた。

その冷たさと熱さが交わる感覚に、息を呑む。

声が出そうになるのを必死に堪えた。


「や…だめ…」


言葉とは裏腹に、体は彼を求めて震えていた。

彼の目が優しく細まる。


「大丈夫、怖くない」


再び口づけられた瞬間、全身が甘い痺れに覆われた。

夢だと分かっているのに、どうして…。


「これって本当に夢なの?」


私のその問いかけに彼の動きがピタッと止まり、私の方を見てニコッと微笑んだ彼の目には光がないように見えた。



そこで1度夢は途絶えた









次に目を開けたとき私はまだ夢の中にいた。

嬉しいのに、どこか怖い。

でも、怖さよりもずっと大きいのはただひとつ




「…戻りたくない。」


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