第13話 なにやってんだ、おまえー!!

「君は……足だったかな」



「やめろ、やめろおぉぉ!」




 若い男の叫び声が続く。足を指し示された男の、その足が爆発し、身体から切り離される。血塗れの足も、やはり『強化ブーステッド』されたものだった。




「てめえらと同じだよ、こいつらは」




 いつの間にかおれの横に立っていたシミズが言う。




「オヤジに拾われた『非強化アンブーステッド』だ。その中にはオヤジに『強化』してもらって、構成員になるやつもいるんだが……『強化』してもらっておいて、逃げ出すやつも少なくねえ。こいつらみたいに勘違いしちまって、組織を抜けて自分らの組織を作れると思うやつもな」




「じゃあ、取り立てる、ってのは……」




「見ての通りだ。あいつらの身体を『強化』した部品を、取り立てるってことだ。『強化』に使った部品を、あいつらは買い取ったわけじゃねえ。あくまでもオヤジの下で働くから貸し与えられているだけだからな」




 それはつまり、生きながら解体されるということだ。




「おっかねえ人だよ、オヤジは。でも、そうでなけりゃこのトーキョーで犯罪組織なんてやってられねえだろ」




 シミズが語る間も、若い男たちの絶叫、いや、断末魔は続く。それを巻き起こすミナトは、淡々と作業を行っている。




 おれは、自分の手を合わせた。ぱんっ、と小気味いい音が鳴る。




「君は、そうか、眼球だったね」



「待て、待て、待ってくれ……」




 最後の『非強化』が指定された時、おれの『隠密インビジブル』が起動した。ミナトの手が伸び、男の顔に近づく。おれはその手目掛けて雷撃を放った。




 ミナトの腕が大きく跳ね上がり、その反動で身体がくるりと回った。シミズが何かを叫んでいたが、おれは構わず走り、ミナトとの距離を詰めた。




 何が起きたのかわからない、驚いた表情を張り付けたミナトの顔に、おれは迷いなく拳を浴びせた。




 ミナトのオートバランサーが調整機能の効果を出せずに横倒しに倒れた。




 「なにやってんだ、おまえー!!」




 シミズの声が聞こえた。本当はずっとそう叫んでいたのだろうが、おれにはようやく聞こえた。




 正直なところ、自分でも何をやっているのか、わかっていなかった。なぜミナトを殴ったのか。『非強化』の男を助けたていだが、そんなことをする義理はないし、取り立ての件に関してはこいつらの自業自得だとも思っていた。同情する余地はない。おれはそれほど他人に情をかける人間じゃあない。情をかけられるほど、いい生活をしてきていない。




 ただ……おれの頭の中では古い記憶が……自分をプロフェッサーと呼ばせた老体の姿が浮かんでいた。




「……そうじゃねえだろ」




 おれの口をついて、言葉が漏れ出ようとしていた。自分の言葉。だが、自分で懸命に思考して、取り繕って紡いでいる普段の言葉というよりは、もっと奥底から、自動的に沸き上がるような、より自分の言葉と言えるような、裸の言葉。




 そんな言葉に呼応するように、おれの両腕は熱くなり、一度は発動した『隠密』が解ける。効果を発動するにはクールダウンが必要なことは察していたが、やはり再使用には早かったようだ。




「おれたちは、そうじゃねえだろ!」



「……いまは、こうする必要があるんですよ」




 ミナトが立ち上がりながら言う。その言葉には、確かな意思を感じた。暴力に流されているわけでもない、自分の力に酔っているわけでもない、もっと大きな流れを思考し、想定した、強い意思を。




「わかってください、とは言いません。でも邪魔はされたくないですね、たとえあなたでも」




 ミナトが、両腕を広げる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る