第14話 爆散

 瞬間、ミナトがその場から消えた。



 それが、おれに見えなかっただけだ。消えたと思えるほどの速さで、ミナトはおれとの距離を詰めて、拳を打ち出していた。おれは対処できずにその拳を受けたが、その瞬間、とても殴られただけとは思えない衝撃があり、身体は大きく後方へ飛んで、建物の窓ガラスを破った。足が引っ掛かって、外へは投げ出されずにすんだが、およそ五メートルは弾き飛ばされて宙を舞った。




 その異常な衝撃に驚きはしたが、『強化ブーステッド』されたおれの身体が動くに問題はなかった。すぐさま上半身を起こして床を蹴る。追撃があると思ったからだ。




 案の定、おれがいたそこへミナトの飛び蹴りが落ちる。蹴っただけとは思えない爆音が響き、窓枠が爆散するのが視界の端に見えた。




 その視界の端から、ミナトが跳んでくる。




 文字通り跳躍して迫ったミナトの拳が今度ははっきり見えた。おれは回避するのではなく、敢えて一歩、ミナトに向かって踏み込むと、フック気味に大回りで回り込んでくる左腕の内側に対して、自分の右腕を当てて弾く。その反動を利用して腰を回した左拳をミナトの顔面に叩き込んだ。




 ミナトの上半身が大きくバランスを崩す。が、ミナトもそれでは終わらなかった。おれの拳を受けた勢いを無理には殺さず、左に身体を傾げてその場で側宙し、跳ね上がった脚でおれの左肩を蹴りつける。再び、『蹴っただけとは思えない』衝撃が走り、反撃を受けたおれの方が吹っ飛んだ。また壁まで身体は飛ばされ、頭を強かに打ち付けた。




 ここに至って、おれは自分の身体の状態を顧みた。蹴りを受けた左肩が動かない。だらりと垂れ下がった左肩から先は力なく、目をやると左肩から『強化』機械部品が覗いていた。蹴っただけでは服を弾き、その下の人工皮膚を弾いてこれほどの状態にはならない。血の代わりに漏れ出る赤い皮下潤滑剤が損傷の大きさを形容する。ぱちり、と頬でも電気が弾ける音が聴こえ、最初に受けた拳が壊れた左肩と同じように頬の皮膚も破って、内部の機械部品に傷をつけていることがわかった。




 たった二発もらっただけ。だが、その被害は甚大だった。自身に危険が迫っていることを知らせるために『強化』された肉体にも人工的に痛覚が備えられているが、あくまでも人工的なものであるため、本当に致命的な損傷に関して激痛を起こすようには作られていない。左肩の状況からすれば『非強化アンブーステッド』であれば卒倒していておかしくないが、おれの身体はまだ動いた。そして何より、考察する頭は冴えていた。




 おれと同じ黒い背広の襟を正し、涼しげに居住まいを正したミナトを見る。あいつの腕に、脚に、何かがある。『内装兵器インプラントウエポン』だ。間違いない。そうでなければこれほどのダメージを負うことはない。




 そこでおれは、取り立てにあっていた男たちを思い出した。

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