第2話 女性の俳人

雪はげし抱かれて息のつまりしこと

              橋本多佳子


いきなり、ラブシーンから始まります。短歌で恋愛を詠うのは珍しくありませんが、俳句ではあまり見ないような気がします。(単に私が知らないだけかも…)韓流映画の一場面のような句です。激しく降る雪の中、抱き合うふたり。息が出来づらい程ぎゅーっと抱き締められる作者。雪が溶けだしそうな熱く激しい感情が伝わってきます。



花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ

                杉田久女


お花見から帰宅した作者は、花見の着物を脱いでいます。着物を着る習慣がないのでよくわかりませんが、帯やらなんやらの紐がいろいろまつわりつきます。そう言えば結婚式で着物を着た時、苦しくて上手く身動きがとれませんでした。紐は面倒な人間関係、精神的な束縛などを暗に表しています。戦前の女性たちには、きっと今より多くの困難があったことでしょう。お疲れ様です、と言ってあげたくなる句です。



外にも出よ触るるばかりに春の月

               中村汀女


外は「と」と読みます。月だけだと秋の句ですが、これは春の月夜の句です。大きな、ちょっと潤んだ満月でしょう。作者は家族のみんなに「外に出てご覧よ、さわれそうなぐらいのお月様だから!」と声を掛けています。みんな、どれどれと外に集まり月を眺めます。ほのぼのとした仲の良い家族です。



じゃんけんで負けて蛍に生まれたの

                池田澄子


そんな馬鹿な!!と思う句です。しかも蛍自身がそう言ってるんですか?変なの……。そもそも蛍は負け組なんですかね?

マアマアそうおっしゃらず。例えば童話だと思ってはいかがでしょうか?勝ったものは何に生まれたんでしょうね……。



苺ジャム男子はこれを食ふ可からず

              竹下しづの女


禁止してます。甘いものが好きな男子は困りますよね。今でこそスイーツ男子がパフェを嬉しそうに食べられますが、当時は逆差別で甘いものは女や子供の食べるものだと思われてたのでしょうね。内心食べたい男子を横目に女子は大手を振って苺ジャムを独占できました。



今生の今が幸せ衣被

               鈴木真砂女


「衣被」は「きぬかつぎ」と読みます。小さな里芋を皮のまま茹でて、食べる時皮を剥きます。秋の食べ物です。作者の今までの人生にはきっと、色々な出来事、困難があったことでしょう。今だって生きる大変さはあります。でも、今が幸せとしみじみ思ってます。それ程贅沢でもない衣かつぎを食べながら幸せを噛みしめている。強がりでも何でもない、素直な心情でしょう。こんな風に生きて、こんな句を残せたら本望です。素敵!!



女性の先輩俳人の句はまだまだありますが、とりあえずここまで。









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