普通のひと
@namakesaru
普通の人
正規分布とは、平均値を中心に左右対称なベル型の連続確率分布である。
2:6:2の法則とは、組織内の人材が「意欲的に働く2割」「平均的な6割」「意欲の低い2割」に分かれるという現象を指す。
以上、Copilot の回答参照。
働きアリの法則とは
・働き蟻のうち、よく働く2割のアリが8割の食料を集めてくる。
・よく働いているアリと、普通に働いている(時々サボっている)アリと、ずっとサボっているアリの割合は、2:6:2になる。
・よく働いているアリ2割を間引くと、残りの8割の中の2割がよく働く蟻になり、全体としてはまた2:6:2の分担になる。
・よく働いているアリだけを集めても、一部がサボり始め、やはり2:6:2に分かれる。
・サボっているアリだけを集めると、一部が働きだし、やはり2:6:2に分かれる。
以上、ウィキペディア(Wikipedia)参照
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人類は、生き残ることができた。
一度、人工知能に支配されそうになった人類であったが、想定外の太陽フレアの発生により人工知能の勢力が著しく抑制されたことに乗じて復調し、それを制御することに成功した。
もちろん人類のダメージも大きく、日本も、平成の時代と大差のない文明に後退してしまっていた。
「あれほどの災害を乗り越えたというのに、国民の一体感の無さはどうしたものだろう」
ときの総理大臣が側近に呟く。
「どうしても、手を抜くような人間は出てきます。それに、そもそも何かしらの疾患を抱えた保護対象の人々もいますので、保護されることへの不平不満が出てくるのかと」
「そうか…。この復興の大事な時に役に立たない人間がいる、ということはかなり問題だな」
「手を抜くのも問題なのですが、国の政策の穴を、それはそれは重箱の隅をつつくように指摘してくる輩もいます。ロジックとして考えると彼らの指摘はもっともなことが多いようですが、正直なところ政治家の私たちにはわからないことばかりです。そして協調性の欠如した人々が存在するのは確かです」
「ふむ…、なるほど。むやみやたらと混乱を招いているという状況も問題だな」
この総理大臣は、リーダーシップだけは強かった。
国民も、人工知能を失ったいま、自ら考えることを要求されることに疲れてもいた。
「よし、全国民、一斉に知能テストと体力テストと協調性テストを行おう。総合的に、上下2割に該当した人々は島流しだ」
こうして選ばれた平均的とされる6割の人々は、昔、都市と呼ばれたとこへ集められ、それ以外の人々はそれ以外の地方と呼ばれた地域へ押し込められた。
そして、互いの交流は禁止された。
それから数年。
都市と呼ばれたところの復興は、総理大臣をはじめとする政治家たちの思惑通りには進んでいなかった。
総理大臣は、再び側近に相談した。
「どうしたのだろう? 復興が予定より大幅に遅れている。能力のない2割は排除したのに」
「それが。はじめの数年は良かったのですが、また手を抜くものとうるさく言う人々が出てきまして。普通の人たちのストレスと不満が大きくなっています」
「なんと! では、またテストだ。上下2割を排除せよ!」
総理大臣はリーダーシップは高かった。しかし、数学は苦手だった。
この時、都市と言われた地域の人口が当、初のおよそ40パーセントになっていることに気が付いていなかった…。
都市と言われた地域に残ることを許された人々は、自分がとても平均的な人間だと証明されたと喜んでいた。
そして再び、揉めることもなく真摯に復興に取り組んだ。穏やかな生活に満足していた。
しかし、また数年たつと様子が変わっていった。
「もっと周りを観なさい! みんなもっと早く終わらせているぞ。自分の作業が遅いことに気が付きなさい」
「なんで、そんなことを言うの? あなたは言われたことだけしていればいいの。いままでこれで問題はなかったんだから」
そして、こんな言葉が出る。
「なんであの人はこんなこともできないのかしら? 能力的な問題?」
「無駄に偉そうなんだよな。なんで普通にできないのか理解できないな」
報告を聞いた総理大臣は、もういちどテストの実施をするように指示した。
しかし、側近はこう言った。
「総理。申し訳ありません。お言葉を返すようですが、これ以上人口を削減することは問題かもしれません」
その頃、その昔地方と呼ばれた地域では、意外なことに順調に復興が進んでいた。
各テストで得られた得手不得手を参考に、平均的なグループを複数つくり広く配置した。主に衣食住を中心とした産業から着手し、各グループ間で助け合うようにしていた。
グループ内では、物理的に動けない人たち以外で、得意不得意を配慮して仕事を割り振っていた。
例えば、体力テストが下位であれば軽作業を、知能テストが下位であれば肉体労働を、協調性テストが下位であれば単独作業を、というふうに。
なまけがちな人達をグループ化することで、実際になまける人数を減らすという工夫も行われていた。
ある日、あらたに普通から排除された人々が救いを求めてきた。
自分たちを排除した一因である彼らを受け入れることに抵抗を示す人々もいたが、人口の増加を目的として、期限付きの制約を付けたうえで迎え入れた。
ここにいるのは、普通から排除された経験を持つ人たちばかり。普通を追い求める人はほぼ、いなかった。
そうして、はじめてテストが行われてから数十年の月日がたったころ。
都市と呼ばれた地域とそうでない地域の復興の進捗の差は明らかだった。
都市と呼ばれた地域では、政府主導ではなく民間主導でテストが繰り返されていた。結果、顕著なところでは、最近行われたテストで人口が100人未満となった地域があった。
自分たちが排除した普通でない人々との交流を、彼らから求めることはない。衣食住を保つことさえ困難になっているのに、普通でないと言われることが怖くて、現状を変えることができないでいた。
リーダーシップを発揮した総理大臣は、その席を譲り渡すことになった。
日本の代表として他国に認められたのは、昔、都市と呼ばれた地域ではなく、地方と呼ばれた地域を主体とした政権だった。
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人間、普通に穏やかに暮らせるのが一番。
けれど、見えているところだけで、その人の人格や能力を判断することには危険を伴うと思う。
だいたいの場合、不得手を補う得手の能力を持っている。ただ、周りがそれを引き出せていないだけではないだろうか。
出る杭を引っこ抜いて。村八分にして。
普通を追い求めて追い求めていくと、最後は平均=中央値の『1』しか残らない。
彼らは、最後の一人になる自信はあるのだろうか?
普通のひと @namakesaru
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