第13話 『焦燥と癒し、遥の願い』

 七月下旬。うだるような暑さが続く中、県立富岳高校では夏季強化補講が始まった。大学受験を控えた三年生にとっては、まさに地獄のような二週間だ。冷房の効いた教室に缶詰になり、朝から晩までひたすら問題集を解く日々は、身体だけでなく、精神にも重くのしかかった。西山和樹も、自習室で参考書を広げながら、全身に倦怠感がまとわりつくのを感じていた。


 補講期間中、和樹のマッサージの需要は飛躍的に高まった。特に夕方、補講が終わる頃になると、女子生徒たちが口々に疲労を訴え、和樹の「癒やしの手」を求めるようになった。その日も、夕食を終えて自習室に戻ると、小林遥が和樹の席のそばに立っていた。彼女はテニス部の練習と補講のダブルパンチで、顔色が悪く、肩を抱え込むようにして立っている。

 「和樹くん……本当にごめんね。こんな時間まで残ってるのに……」

 遥の声は、普段の明るさが嘘のようにか細く、疲れ切っていた。和樹は彼女の顔を見て、すぐに状況を察した。

 「大丈夫か?かなり疲れてるな。どこが辛い?」

 遥は震える声で答えた。

 「うん……肩も首もガチガチで、頭まで痛くなってきた……。足もむくんでて、もう、全身が重いの……」

 自習室はまだ他の生徒も残っており、人目があった。和樹は周囲を見回し、カーテンで仕切られた自習スペースの奥、普段はあまり人が使わない場所を指差した。

 「あそこなら、少しは落ち着ける。行こうか」

 遥は力なく頷き、和樹についてきた。


 カーテンを閉じると、そこは外界から隔絶された、二人だけの小さな空間になった。遥は椅子に座り込むと、大きく息を吐いた。彼女の運動着からは、汗と疲労が混じり合った、酸っぱいような匂いが微かに漂っていた。

 「はぁ……和樹くん、私、もう無理かも……。こんなんで受験、乗り切れるのかな……」

 遥の瞳には、不安と焦燥の色がにじんでいた。和樹は彼女の前にしゃがみ込み、その腕をそっと取った。

 「大丈夫だよ。遥はいつも頑張ってるから。まずは身体を楽にしよう。そしたら、きっと気持ちも楽になる」

 和樹が優しく声をかけると、遥は和樹の言葉に縋るように、彼の腕を握り返した。

 「ありがとう……和樹くん」

 遥はゆっくりと運動着のTシャツを脱ぎ、淡いラベンダー色のブラジャー姿になった。白い肌に映えるその色は、彼女の繊細な雰囲気に合っている。和樹は、彼女のバストを包むブラジャーの丸みと、汗ばんだ肌の感触に意識を集中した。


 和樹はまず、遥の肩と首を丁寧に揉みほぐしていった。凝り固まった筋肉が、和樹の指の圧によって少しずつ緩んでいく。

 「んっ……気持ちいい……」

 遥の口から、甘い吐息が漏れた。次に和樹は、彼女の背中を撫で下ろし、腰から臀部へと手を滑らせた。遥のショートパンツは短く、太ももの付け根までが露わになっている。和樹は、彼女の腰から鼠径部にかけて、リンパの流れを意識したマッサージを始めた。足のむくみと冷えを訴えていた遥の症状を改善するためだ。

 「あっ……和樹くん……そこは……!」

 鼠径部に触れた途端、遥の身体が大きく跳ねた。彼女の口から、甘く、そして抑えきれないような喘ぎ声が漏れる。それは、単なるリラクゼーションを超えた、直接的な快感の表現だった。和樹の指先は、鼠径部の柔らかな皮膚の下にあるリンパ節を優しく刺激する。それが、彼女の身体の奥深くに、波のような快感を引き起こしているのが分かった。

 「遥、むくみ、酷いみたいだから、ここも重点的にほぐしていくぞ」

 和樹は努めて冷静を装って言ったが、彼の指先は、遥の身体の熱を帯びた反応に、微かに震えていた。遥の身体は、快感に身をよじり、うめき声を漏らす。彼女の頬は真っ赤に染まり、瞳は潤んでいた。

 「はぁ……和樹くん……もっと……そこ……」

 遥の声は、理性を失いそうなくらい甘く、和樹の理性もまた、その声に揺さぶられた。和樹は、彼女の太ももの内側をゆっくりと撫で上げた。柔らかく、しかし弾力のある肌の感触が、和樹の掌に吸い付くように伝わる。


 「ねえ、和樹くん……」

 遥が、途切れ途切れの声で囁いた。

 「私、和樹君がいなかったら、もうやってられないかも……。こんなに気持ちいいこと、和樹君しかしてくれないから……」

 その言葉は、和樹への深い依存と、性的な興味が混じり合ったものだった。遥は身体を震わせ、和樹の腕を掴んだ。

 「和樹くん……私、正直言って、男の人とそういう経験、まだないの……。でも、和樹君なら、大丈夫な気がする……」

 遥の瞳は、和樹の奥底を見つめ、初体験への漠然とした不安と、和樹への期待が入り混じっていた。和樹は、彼女の身体から漂う、興奮した体臭が、この閉鎖された空間に満ちているのを感じた。


 マッサージを終えても、遥の顔にはまだ恍惚とした表情が残っていた。彼女は、和樹に感謝の言葉を述べながらも、その手は和樹の手を強く握りしめていた。

 「本当にありがとう、和樹くん。また、お願いしてもいいかな?今度はもっと……ゆっくりと」

 その言葉は、和樹の胸に深く響いた。彼は、遥が自分に深く依存していることを自覚し、責任感を感じる。同時に、性的マッサージが彼女たちにとって不可欠なリラクゼーションになっていること、そして、その先に彼女たちが何を求めているのかを理解し始めていた。この夏、和樹と女子たちの関係は、さらに危険な領域へと足を踏み入れていくことになるだろう。


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