第12話 『梓の吐息、甘く広がる夜』

 七月中旬の週末。西山和樹は、月島咲良とその友人たちと共に、地元の夏祭りへと来ていた。いつもは制服や運動着に身を包んでいる彼女たちが、今日は皆、涼しげな浴衣姿だ。鮮やかな色彩が夜店の提灯の明かりに照らされ、彼女たちのいつもとは違う魅力が際立っていた。


 特に佐々木梓は、淡い水色の朝顔柄の浴衣を着ていた。普段の知的な印象とは異なり、髪はゆるくまとめられ、うなじが覗いている。和樹は、彼女の浴衣の襟元から覗く白い肌や、帯で強調された身体の曲線に目を奪われた。彼女から漂うのは、いつもより甘く、そしてどこか涼やかな花の香りだった。人混みの中、はぐれないようにと、時折触れる彼女の浴衣の袖が、和樹の指先に微かな熱を伝えてくる。


 金魚すくいや射的、かき氷を楽しみ、花火の時間が近づくにつれて、人混みはさらに増していった。熱気と喧騒の中を歩き回るうちに、女子たちは皆、汗をかき、疲労の色を隠せなくなっていた。

 「はぁ……もう、足が棒だね。人多すぎ……」

 山本結衣がそう言って、へとへとになった様子で肩を揉んだ。

 「浴衣も着崩れてきちゃったし、早く涼しいところに行きたいね」

 伊藤楓も額の汗を拭いながら同意する。

 花火が打ち上げられ、夜空を彩る大輪の光に歓声が上がる。その間も、和樹は梓の横顔をじっと見ていた。花火の光が彼女の瞳に映り込み、きらきらと輝いている。その横顔は、普段よりもずっと無防備で、和樹の胸を締め付けた。


 花火が終わると、一行は解散することになった。和樹が自転車で帰路につこうとすると、背後から優しい声がした。

 「西山君。もしよかったら、うちに来ない?まだ少し時間あるし、疲れた身体、マッサージしてほしいな」

 振り返ると、そこに立っていたのは佐々木梓だった。彼女は少しはにかんだように微笑んでいる。普段の彼女からは想像できない積極的な誘いに、和樹の心臓が大きく跳ねた。

 「いいのか?」

 「うん。お母さんも遅くまで仕事だし、誰もいないから。ゆっくりできるよ」

 梓の言葉に、和樹は頷いた。誘惑を断る理由など、どこにもなかった。


 梓の自宅に着くと、彼女はすぐに浴衣から部屋着に着替えた。淡いピンクのキャミソールと、レースの縁取りのあるショートパンツ。その姿に、和樹は思わず息を呑んだ。キャミソールの胸元からは、白いノンワイヤーブラのラインがわずかに見え、その下のバストの柔らかな膨らみが強調されている。彼女から漂うのは、先ほどの浴衣の香りと混じり合った、梓自身の甘く、少しだけ汗ばんだ体臭だった。

 「ソファでいいかな?」

 梓はそう言って、リビングのソファに横になった。和樹は、彼女の隣に座る。

 「どこが特に辛い?」

 「やっぱり、足と腰かな。浴衣でずっと歩いてたから、すごくむくんでて……。あと、花火見てて上向いてたから、首も」

 和樹は梓の足を取り、ふくらはぎを優しく揉み始めた。ひんやりとした肌の感触が、和樹の指先に伝わる。彼は、足の甲から足首へと、リンパの流れを意識するように丁寧に撫で上げた。

 「うん、むくんでるな。これじゃ疲れるはずだ」

 「和樹君の手、すごく気持ちいい……」

 梓の口から、甘い吐息が漏れる。和樹は、彼女の足首から太ももへと手を滑らせていく。ショートパンツの裾から、きめ細やかな太ももの肌が覗く。


 次に、和樹は梓の腰と臀部のマッサージに移った。梓はうつ伏せになり、身体を和樹に預ける。和樹は、彼女のショートパンツのゴムのラインに沿って、優しく圧をかけていく。

 「ここ、凝ってるね。もう少し深く押してもいいか?」

 「うん……大丈夫。もっと、和樹君」

 梓の言葉に促され、和樹は指に力を込めた。彼は、彼女の腰から臀部を優しく撫で下ろし、白いシンプルなショーツに包まれた、豊かで弾力のある臀部の感触を指先に感じ取る。ショーツの薄い生地越しに、彼女の身体の曲線が鮮明に伝わってくる。

 和樹は、彼女の股関節付近に手を滑らせた。鼠径部のリンパ節を優しく刺激するマッサージを始める。足のむくみや冷えに効果的だと以前調べた知識を思い出したからだ。

 「あっ……そこは……!」

 梓の身体が、大きく跳ねた。彼女の口から、これまで聞いたことのない、甘い喘ぎ声が漏れる。鼠径部への刺激が、彼女の身体に直接的な快感を与えているのが、和樹の指先からも鮮明に伝わってきた。梓の身体は、熱を帯びて、和樹の指に吸い付くように反応する。

 「和樹君……もっと……そこ……」

 梓の声は、理性を失いそうなくらい甘く、和樹の理性もまた、その声に揺さぶられた。彼女の身体が、快感に身をよじる。梓の肌から漂う、興奮した体臭が、彼の五感を支配していくのを感じた。


 「梓、肩も楽にしていくか?」

 和樹は声を震わせながら尋ねた。梓は身体を仰向けにし、キャミソール姿で和樹を見上げた。その瞳は潤み、頬はバラ色に上気している。和樹は、白いノンワイヤーブラに包まれた梓の胸に視線を落とした。

 「うん……ここもお願い。なんか、すごく張ってる気がして……」

 梓の言葉に、和樹はゆっくりと手を伸ばし、彼女のデコルテから鎖骨、そして乳房の基部に触れた。乳房の基部からリンパの流れに沿って、優しく丁寧なメンテナンスマッサージを施した。優しく円を描くように指を滑らせると、梓の身体が小さく身悶え、より深い吐息を漏らした。それは、単なるリラクゼーションを超えた、快感の波が全身に広がっていく兆候だった。

 「はぁ……和樹君……そこ……すごく、気持ちいい……」

 梓は、恍惚とした表情で、和樹の手をそっと握った。彼女の指は、わずかに震えている。


 マッサージを終えた後も、梓の顔にはまだ名残のような恍惚とした表情が残っていた。彼女は、和樹の腕をそっと掴んだ。

 「和樹君、本当にありがとう。こんなに、こんなに気持ちいいなんて……。もう、和樹君じゃなきゃ、ダメかも」

 その言葉は、和樹の胸に深く突き刺さった。それは、単なる感謝以上の、和樹への深い依存と、性的な興味が混じり合った言葉だった。和樹は、彼女たちの身体を癒やすという行為が、同時に性的快感を与えるという、複雑な関係性に、深く足を踏み入れていることを自覚した。夏の夜の静けさの中、和樹は梓の甘い吐息と、火照った肌の感触を、いつまでも忘れられないだろうと感じた。


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