第3話 雄介 10歳

 今日こそラスボスのブラックサタンを倒してやる。ゲーム機のコントローラーを握る手の平に微かに汗をかきながら、雄介はテレビの画面をにらみつけた。気になるのは風呂の時間だ。


 幸子たちがあがったら自分が入らないといけなくなる。それまでに最終画面までたどり着けるか、それが問題だ。



 姉は裕太と一緒に風呂に入っている。出てくるまで約二十分。そして幸子たちが十五分くらいだから、自分に残された時間は約三十五分というところだ。


 まあそれくらいあれば大丈夫だろう。

 親の居るときは出来ないテレビゲームだから、今日のチャンスを逃したくなかった。



 調子よく敵を倒していく。


 姉が裕太とともに風呂から上がる頃には最終画面の一歩手前まできていた。

 後はブラックサタンの部下三人を倒すだけでラスボスまで行き着ける。


 幸子と加代子はなにやらこそこそ話し合いながら風呂場に消えて行った。さあ、あとひとがんばりだ。

 雄介がそう思ったとたん、何かが外れるような音がして、突然ゲーム機がおかしくなってしまった。


「あれ、切れた」

 思わず独り言が出る。


「どうしたの?」

 裕太の髪を拭いてやりながら姉が尋ねてきた。


「わかった。また接触が悪くなったんだ。前にも同じ事があったんだよ。でもお父さんが直してくれた。それ見てたから僕も直せるよ」

 父さんの机の引出しに道具があったはずだ。


 心配そうに見つめる姉に大丈夫だと言って、雄介はドライバーを引出しから一本取り出した。

 それでゲーム機の蓋を開け、内部にあるソケットを抜いて、刺しなおした。


 雄介の唯一の失敗は、その時にゲーム機のコンセントを抜いていなかったことだった。

 ばちっと音がして、電気が全部消えた。

 窓から入ってくる街灯の明かりを残して、部屋の中が一気に暗くなった。

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