第15話 ルシアは目を覚ました。
ルシアは冷たい床に頬を押しつけたまま目を開けた。
薄暗い視界の中、埃の匂いと黴びた木箱の臭気が鼻を刺す。
ルシアの四肢は縄で縛られていて、動いても解けそうになかった。
以前から胸にあった思いが、一瞬、脳裏をよぎる。
聖魔法には攻撃魔法も防御魔法も無い。どんなに貴重な聖魔法を使えても身を守る術が無ければ意味がない。
それはルシアが聖魔法を使えるようになった時からずっと思っていた事だった。
もし、ルシアに、頼れるような攻撃の切り札があったなら、こんなことにはならなかったかもしれない。
足音がする。
振り向くと三人の男がルシアに向かって歩いていた。
ルシアは男達に呼びかける。
「あなた達の目的は何ですか。」
先頭に立つ男がルシアの問いを鼻で笑う。
「目的?そんなもんねえよ。お前が息してるのが気に食わねぇ。それだけだ。」
男の腕が横に振れる。
乾いた音と共に、熱が頬に広がる。
それが合図になったかの様に、他の男達もルシアの事を殴りつけ出した。
別の男が言う。
「俺の母親は病気で死んだ!治せる病気だったのに、薬の金が無くて死んだんだ!」
なるほど、とルシアは思う。
この男達は貧困層の人間で、国民の税金で暮らしていたルシアに恨みを抱いているのだ。
ルシアは答える。
「それはごめんなさい。でも、聖女は収入を得られないから。」
また別の男が言う。
「じゃあ聖女を辞めれば良かっただろ!実際、もう一人の聖女だって出てきてた。なのにお前は。役立たずの癖に!」
「それは…。」
ルシアは言葉に詰まった。
「それは、新しい聖女様が仕事に慣れるのに時間がかかると思ったから——。」
嘘だった。
アエミリアはルシアの何倍も器用だった。
その上、勉強だって二ヶ月で終わらせてすぐに仕事に入ったのだ。そこからの二年間、ルシアが聖女でいる必要がない。
それが分かっているのか男達の瞳が冷えた石のように沈黙した。彼らの眼がルシアをじっと見つめる。
その顔にルシアに背筋に氷水を垂らされたような感覚が走る。
この嘘はバレている。そう思ってルシアは言葉を継ぎ足す。
「それに、辞めたところで居所が無いし——。」
これは本当だ。
だが、その瞬間、男の眉間が深く寄り、舌打ちが空気を裂いた。次の瞬間、掌から黒い石の様なものが現れる。
それは今にも飛び出しそうに火花を散らしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます