第14話 ラモンは推理する。

 ともすればへたり込むような身体を、引き摺りながら部屋に戻ったラモンは、廊下にいた人々に聞いたことを反芻していた。


 彼らの言葉と、今の状況を照らし合わせると、昨日、ルシアは暴漢に襲われ、やはり連れ去られたらしい。

 その際にルシアの部屋を見つけるためか、いくつかの部屋の窓を虱潰しに割っていって、部屋の中を確認していたようだった。

 

 外に出る支度を整えたラモンは、部屋を出て受付に向かいながら考える。


 部屋を虱潰しに探したという事は、宿の場所は突き止められても、部屋までは知られていなかったと言うことだろう。そうでなければ、窓を割る必要はない。


 そう考えた時、路地の影からじっとこちらを見ていた男の顔が浮かんだ。


 ラモン達が宿を目指して人通りの少ない道を歩いていた時のことだった。

 その男以外にも不躾にラモン達を——ルシアを見つめる者はいたが、その男の視線は、異様に長く、嫌な目でルシアを見つめ続けていた。

 

 それを思い出して、ラモンは入ったばかりの部屋から飛び出し、尚更急いで受付に向かい、係の者に話しかけた。


「はい。いかが致しましたか。」


「ルシアが見つかったら、部屋で待たせてくれ」


 返事を聞く前に、ラモンは走り出した。


 ラモンは、昨日、宿に来た時に出会った人々の人相を全て覚えていた。


 後はその中から怪しい人物——あの男について、街の人に行き先を聞くだけだ。


 闇に包まれた顔が、絶え間なく脳裏をかすめる。


 ルシアは攻撃の手段を持っていない。


 聖魔法は、お伽話の様に、攻撃できるような類ものではないし、ましてや聖魔法以外の魔法があったりする訳ではない。

 幼い頃にやったチャンバラごっこだって、どう頑張っても遊びの域を出ない。


 脳裏をかすめる件の男が、暗闇の中、にやりと笑う。


 ラモンはやり場のない気持ちを握った掌に込めて、今一度加速した。




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