第10話 ルシアは宿に泊まる。

 宿に着き、二人はそれぞれの部屋を取り、別れた。


 部屋に入るなり、ルシアはベットに飛び込む。

 今日は、心も体もぐったりと疲れていた。


 馬車から宿へ向かう道中、人通りの少ない道を選んだはずなのにすれ違った人々の視線が妙に刺さった。中には、明らかにこちらを見ていた者もいた。

 宿の受付の視線も普通の客に向けるものではなかった。


 ルシアはその視線に気付いた途端、それまで弾んでいた気持ちが瞬にして冷えていくのを感じた。


 そのことを頭から追い出しつつルシアは身体を起こして風呂へ向かう。

 

 明日はどこに行くのだろうか。

 今日見た街灯の灯りはとても綺麗だったから、折角なら夜景が綺麗な所がいい。

 ラモンからメドソルム以外の経由地の話は聞かなかったので、その前に少し他の街に寄ってもいいかもしれない。まあ、どうせ最終地点はプロレタウノだけれど。

 そう。それから一般人から顔を隠すための帽子か何かも買わなければ——。

 思って、溜息を吐く。どうしても、暗い考えが頭をもたげてしまう。


 先程まで笑顔でラモンと会話していたのが嘘のようだった。


 浴槽に足を入れると、自然と息が抜ける。そっと湯に身を沈めた。


 温かさに体を預けていると、追放を宣言された時の事を思い出した。


 当初はなんでパーティーでなければいけなかったのか、と疑問だったし憤ってもいたが、周りの態度のお陰で段々とわかって来た。


 国民の税金で暮らしていたのに、まともに務めも果たせなかった。ただ追放というだけで終わらせるには、国民の怒りは強すぎたのだ。

 だから、追放という形をあえて派手に見せたのかもしれない。


 王子もきっとそれが分かっていたから、あんな風に無慈悲にルシアの事を切り捨てたのだ。


 王子が自分を憎んでいたわけじゃない——そう分かっただけでも嬉しかった。


 けれど、それ以上に、彼にそんな冷酷な役を背負わせたことが苦しかった。

 嬉しさと罪悪感、その中で心が揺れていた。

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