第11話 ルシアは狙われる。

 ルシアは浴室を出ると寝間着を着て、そのまま眠りについた。

 その夜の事だった。


 ——パリン。

 ——パリン。パリン。


 暗い部屋、毛布の中。立て続けにガラスの割れるような音がした。


 ——パリン。パリン。パリン。


 その音が続いて少しして、今度は怒号やら足音やらで部屋の外が騒々しくなる。


 ルシアも今すぐに部屋を飛び出してそれに加わりたかった。

 が、できなかった。


 首筋が痺れる。誰かの敵意がこちらに向いているのがわかる。その音は、まるでルシアを狙うように続いていた。


 ルシアは懸命に震えを抑え布団に包まり頭を隠した。


 ——パリン。パリン。

 ——パリン。


 少しして。ルシアの部屋で音が止まった。

 何かが落ちる音がする。

 窓の破片だろうとルシアは思った。


 今度は部屋に足音が響いた。


 ルシアは息を殺して動きを止める。


 どうにか助けを求めようとして、そういえば、とルシアは思った。


 そういえば、ラモンはどうしたのだろう。

 城にいた頃も何度かこういうことはあったが、そういう時はいつもラモンが一番にルシアの所に駆けつけ、暴漢を叩きのめしていた。

 もう従者じゃないにしても——、とそこまで考えてようやく、彼が今やただの旅の仲間であることを思い出した。


 ラモンはもう従者ではないのだからルシアに駆けつける必要もないのだ。

 もう、わざわざ危険を冒してルシアを助ける必要はない。

 そう気付いて、ほっとしたような寂しいような気持ちがない交ぜになる。


 そうやって考えごとをしていたせいで、足音がすぐそばで止まっていたことにも気づけなかった。


 勢いよく布団を捲られルシアの心臓は凍りつく。


 顔を向ける間もなくルシアは骨張った手に腕を掴まれた。

 ルシアは力一杯もがいたがその手はびくともしない。


「おい、暴れるなよ!」


 そう言いながらルシアの手を掴んだ男は窓に向かっていく。

 そこから逃げるつもりなのだろう。


 割られた窓から月明かりが差し、一瞬部屋の様子が確認できる。

 赤い絨毯の上には窓ガラスの破片が飛び散り月光を反射している。

 部屋の中には男が三人いる。皆体格は良くないが、喉元を狙う獣のような気配がルシアに突き立てられていた。


 部屋に唸るような風が入り込む。


 男が遂に窓枠に足をかけた時、ルシアは耐えかねて叫んだ。


「——ラモン、助けて!」


 男がルシアを抱え外に飛び出す。

 ルシアの声は夜風に吹かれ呆気なく宙に消えた。

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