第44話 こちらのターンですわ

「というわけで、彼女はあなた様とはしばらく会わないでありますわ」


「は?」


 夫人の言うとおり、独身の女性小人が暮らす建物へと移り、距離を取ることにする。


 なるほど、これはいいわ。離れられると苦しいけど、自分からだと思うとダメージも深くない。余計なことを考えずに済むわ。でも……


「それで? 外でのハマイさんとはどんなお話をされたでありますの?」


「モアさんは1人で大木を片付けたというのは本当だと思いますであります?」


「アルファさんは……」



 外からの客だと夫人に紹介されてから、女性陣からの質問責めにあう。


 正直、顔の区別なんてつかないわよ。


「私は彼らとはそんなに話していないから……」



「ううっ、お願いしますでありますわ。村の外の様子を是非知りたいんでありますの」


「本人に直接聞けばいいじゃない」


「そんなっ!! 恥ずかしくて無理でありますわ」


「そうでありますわ。お話ししているだけで緊張して、お言葉なんて返せませんでありますわ」


「……緊張って、胸が苦しいの?」


「もちろんでありますわ。会ったらぎゅっと息がつまって、会えないとぎゅーーーーっと切なくなるでありますわ」


「…………」


「私は、会うと心臓が飛び出てしまうのではないかと思うくらいドキドキしてしまいますでありますわ」


「…………」


「それで、私たちの話ばかりしてしまいましたでありますが、リア様はお連れの方とは恋仲なのでありますの?」


「そういうわけでは」


 ないの? 告白されて、抱擁もして、キスまで、それも何度もしている。あれ? 私とオリバーって……いや、ありえないわ!! よね……元お父様を倒してもらうための聖魔法使いを見つけるまでのカモフラージュで一緒にいるだけで、機会があれば彼から逃げたいくらい……って、今ってすごいチャンスよね? 足を怪我しているし、こうやって離れているんだから。


「そうだわ。今がチャンスよね」


「「「私たちも協力致しますわ」」」


「へ?」








 それから2週間、なぜか付きっきりで小人族の踊りをたたきこまれる。逃げようとしてもすぐに捕まり、私に合う香水を調合するのだと、昼も夜も隙がない。


 この村から出るには小人たちの歌が必要だから、とにかく我慢よ。


「リア様、踊りや歌は小人族にとってとても大事なものでありますわ!!」


「そのとおりでありますわ。特にこの踊りは殿方に外での無事を願う意味が込められているでありますの」


「うまく踊れると、どんな方でもいちころでありますわ」


「私は別にいいんだけど……」


「ダメでありますわ!!!! 明日、村でお祭りがありますの!! そこで村娘達は恋仲になりたい意中の相手を誘って踊るんでありますの」


「綺麗におめかしもしますでありますわ」


「この香水、やっとリア様をイメージした香りが出来たでありますわ」


 小人族の女性陣は、人の世話をやくのが好きなのかしら。綺麗な石をさらに磨いて作られたアクセサリーに、衣類までいつのまにか新調して作っていた。これは族長の夫人が用意してくれたらしいけど、いつのまに。


「明日、歌や踊りがあるってことは、外の入り口が開くかもしれないってことよね。途中こっそり抜けてしまおうかしら」


 結局、今後どうしたいか、決まったわけじゃないけど。それでも、こんなに気持ちが振りまわされるのはごめんだわ。それに、どう考えたって相手はオリバー。勇者で聖魔法が自由に使えるんだから、どう考えても一緒にはいられないわ。


 迎えたお祭りの日、外へ出ると、昨日までなかった飾り付けが村中にされている。


「リア様、おは……むにゃ」


 まだ寝起きのようだが、祭りの日だと気づくとどうやって踊りに誘い出すか、そんな話ばかりでてくる。



「私はそうね……当然、オリバーよ」


「きゃーーーーっ、やっぱりでありますね」



 盛り上がっているとこ申し訳ないけど、小人族の踊りって幻覚魔法の時もしてたわよね。


「もしかして、踊りって魅了の効果もあるのかしら?」


「もちろんでありますわ。でも、この踊りは既に相手が自分のことを気に入ってくれてる場合に効果が出るものであります」


「魅力度が上がるのでありますわ」


「相手の好き度によって、効果は異なるらしいのでありますわ」


 それじゃあ、効果の効いている間は私の言うことを聞いてくれるかもしれないわね。


 ここにいなさいって。

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