第43話 恋の病

「俺だけじゃなくて良かった」


「う、うん」


「心臓が速いの、意味分かった?」


「あなたに抱きしめられているからだと思うわ」


「うん。それで?」


「それでって、私も分からないわ」


「なるほど」


 なるほど? オリバーが自分の言葉を飲み込むように頭を抱えている。


「今までの、イヤじゃなかった?」


「今までのって?」


「だから、コレとか……」


 そう言うと、抱きしめたままの勢いで口にキスをしてくる。


「なっ!?」


「イヤだった?」


「嫌じゃ……ないけど」


 だからって急にするものじゃないでしょっ!! 怒りたいのに、なぜか顔が熱くなるのを感じる。


「そんな顔されると、やっぱり今夜は俺は外で寝た方が良さそうだ」


「待って。怒っているとかじゃなくて……」


「だからだよ。俺が君にキス以上のことをしたくなる」


「っ!?」


 それは……一体何を!?


 ゼビル姫の時ですら、唯一の元カレニーロンとは手も握らないうちに別れたっていうのに。


 なんとなく、それ以上は引き止める言葉が出なかった。


 結局、オリバーは外で、私は中で1人足を曲げて寝て過ごした。





 結局、ちゃんと眠れなかったわ。


 族長から教えてもらった真実の花について考えようとしても、オリバーの言葉が頭から離れなかった。


「まぁ、おはようでありますわ。もう1人の彼は日が昇る前に森の様子を見てくるって他の小人と出かけたでありますわ」


 朝食のテーブルには3人分とは思えない食事の量が並んでいる。


「急だったから、彼にはあとでお弁当を持って行ってもらいましょうでありますわ」


「なら私もあとで……」


「出来立てが1番美味しいんでありますの!!」


「分かったわ」


 族長と奥さんは楽しそうに話をしながら、もりもりとご飯を食べていく。


 あの小さな身体にいったいどうやって入っていくのよ。


「あら? 全然食べてないでありますわ……お口に合わなかったでありますか?」


「いえ、美味しそうよ。でも、なんというか……」


 昨夜からこのざわつく気持ちはなんなのよ。オリバーがいたら苦しくなるのに、いなかったらもっと苦しいなんて。


「……あなた、お弁当に詰めますから、オリバー様に朝食を届けてくれますでありますか?」


「えっ、まだ食べ始めたところだがであ……」


「はいはい、いってらっしゃいでありますわ」



 2人きりになると、あっという間にテーブルを片付け、かいだことのない香りのお茶を出してくれる。


「これは?」


「うふふ、小人族でも女性陣しか知らない煎じ茶でありますわ。なんだか悩んでいらっしゃるのでしょう?」


「…………」


「小人族の男はね、森とこの村を守る為に、人間には非道なことをするでありますでしょう? でも、あなたはお客様でありますわ。痛いところがあれば薬草で治す、それが小人族のおもてなしでありますわ」


「私はどこも怪我をしていないわ」


「うふ、ここが痛そうでありますわ」


 そう言って胸を指す。


「このお茶は、あったかい気持ちになる薬草で入れたんでありますわ」


 勧められるまま一口飲む。確かに、気分が落ち着く気がするわ。


「分からないのよ。別のことを考えたいのに、集中出来なくて。離れたいと思っている相手と離れたくないとも思ってしまうなんて……考えると眠れないし、なぜか食欲もわかないのよ。やっぱりあなたの言うとおり病気なのかしら」


「まぁっ!! それはっ大変でありますわっ」


 心なしか、夫人の目が輝いているように見える。


「それで……これは治せるの?」


「えぇ、もちろんでありますわ。あなたなら絶対に大丈夫でありますわ!! お耳を貸してごらんなさいであります」


「〜〜〜〜〜〜っ!? それが治療法っ!?」


「女というのは常に優位に立たないと落ち着かない生き物なのでありますわ」


 なるほど、それは一理あるわね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る