電話を貸して。

バスに乗って帰る時、沢山のお客さん達が出ていた。

今日、帰るのか。

寂しそうな顔、ホッとしたような顔。

中でも一番ホッとしているのは、殺された少女の隣の部屋の男性だった。

事情聴取が終わったら、そりゃあホッとするよな。

あまり眠れていないボンヤリとした目でそう考えていた。

いつの間にか寝てしまっていたらしい。

学校のそばまで来ていた。

少し伸びをして、周りの人を見る。

それぞれ、楽しそうに話しているけれど一人だけ何か違った。

千秋。心ここにあらずという感じでぼうっと外を見ている。珍しいものなんて何も無いのに。





あの日から、ずっと学校を休んでいた私は、ついに決断した。

「母さん、電話を貸して。」

母さんは、「千秋が電話をするなんて珍しいじゃない。」不思議そうに言って、貸してくれた。

ピッピッピッと電話番号を押してゆく。あの殺された少女の親の会社。

思いの外、順当に行ってしまった。






私は、千秋が心配すぎて家を覗いてみた。

背が高いから、千秋の家の高い塀でもちょっとは覗ける。

電話?なにか話している。

聞いてみようと思ったけれど、千秋のお母さんが出てこようとしていたので、急いで帰った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る